悲しいことに俺の青春と人生は、オウム真理教の影響を大きく受けている。
杉並区の高校に通っていたことも、俺の精神をオウムで埋めることに拍車をかける要因になっていただろう。
彼らの一部は愉快な教祖のはりぼてを被り、ある者は象の着ぐるみに身を包み、あるいは象の帽子を頭に乗せている。
特殊なコスチュームを持たない信者らは、サマナ服と呼ばれる修行用の衣服をまとい、風船やら麻原彰晃のマンガを配ったりしていた。
もちろんBGMは例のマーチやらアストラル音楽という、キャッチーでありまた環境音楽のような不思議なものである。
俺は国語を筆頭に社会科、政治、そう言ったいわゆる「文系」科目は苦手ではあったものの、そんな俺でも「選挙権を持たない子どもをメインターゲットとしている活動」が、少々不自然であると感じていた。
そりゃそうだ。
風船はただの風船ではなく、教祖の似顔絵がプリントされているのだ。
高校生に配られる小冊子には、確か空中浮遊できるまでの修行の様子が描かれたマンガなどが掲載されていたが、しょせん高校生などアホの集団であり面白がってそれを貰うのだ。そして教室の後ろのロッカーの上には放置されたそのチラシが散乱していた。
男の子は好きなんだよ。
秘密基地のようなものや、仲間をコードネーム(ホーリーネーム)で呼び会う秘密結社感が、想像力をかきたてるのだ。
ではその秘密結社に入りたくなったのか?と言えば、残念ながらそれは無い。
「なぜこんな怪しげな組織に入りたくなるのか?」と、信者の心理や精神構造が気になって仕方なかった。
ずっとだよ、ずっと。
彼らが大きな事件を起こし、事態が収束していくまで、いや、それ以降もか。。
「そこに何かの救いがあったのだろう。」と漠然と思っていたが、なぜソレなのか?ソレでなければいけなかったのか?
彼らは事件を起こした。
自宅最寄り駅の野方駅近くには、呉服屋の上にオウム真理教病院があったが、そこもまた事件の舞台となってしまった。
震撼した。
にも拘らず、日々テレビで報道されるオウム真理教の情報は、心を揺さぶったのだ。
サティアンと呼ばれる施設には秘密化学工場があり、ヴァジラヤーナ号とかいうクルーザーを所有していたり、次々と明かされる関係者のホーリーネーム、挙げ句の果てに報道陣が居る目の前での暗殺まで……
笑えない、笑ってはいけない。
笑えるわけがないのだ。
……にも拘らず、興味が絶えないのだ。
事態が収束し報道される情報の減少に、軽い寂しさすら覚えたのだ。
終わりが近づくことは良いことであるはずなのに、だ。
心を返して欲しい。
俺の心も脳細胞も、そんなことを考えるためにあるわけじゃあない。
そんなことを覚えるためにあるわけじゃあない。
心と脳細胞を返して欲しいのだ。
教祖は死んだ。
これで本当に、人々の興味も、記憶も、薄れていくのだろうか?
それとも、まだあの教団から派生したいくつかの組織が存続している以上、しぶとく人々の記憶に巣食い続けるのだろうか?
人々の……というより、俺の、だ。
こんなに、こんなに興味を注ぎ続けてきたのに、一度たりとも「入りたい」と思ったことは無いのだ。
返却された脳細胞で何を考えるの?くだらんアニメ見てAV見てしこってるだけなら変わらんで
何かがあったり無かったりしても、しょせんそういう人間なのだから、大差無いんだろうなと思う。
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