「あれ、マスダじゃん。マスダがこういうのに参加しているなんて珍しいね」
弟の捜索中、クラスメートのタイナイ、カジマ、ウサクの三人と出くわした。
どうやらあいつらもハロウィンに参加していたようで、何かの動物らしき仮装をしていた。
ああ、あれか。
「ということはウサクも『ファーリー友達』とかにいるキャラ? それとも普段着?」
ウサクだけ妙に垢抜けない一般人みたいな格好で、いまいち作品の世界観が掴みにくい。
「えーと、確か人間っぽいキャラがいた気がする……そう、図嚢ちゃんだ!」
『ファーリー友達』キャラのコスプレじゃなくて、そのアニメのファンの格好をしているってことか。
「『ファーリー友達』のキャラだとカブりそうだし、ハロウィン的にもアニメキャラよりオタクの方が恐怖の対象としては適任だろ」
仮装がカブるのが嫌だってのは分かるが、そのチョイスは適切なのだろうか。
「確かに、同じケーブライオンの仮装している人かなりいたんだよね。僕も10連ガチャで一喜一憂する様子を動画配信する重課金者の仮装でもすればよかった」
タイナイも普段似たようなことをやっているが、それは仮装として成立するのだろうか?
基準がイマイチ分からんが、こいつらがあまりにも当たり前のように語るものだから、俺は何も言えないでいた。
「……まあ人気のアニメらしいからな。毒にも薬にもならんようなアニメだが」
「エアプ乙。『ファーリー友達』は一見するとユルい雰囲気だけど、設定とストーリーの流れは考察しがいのあるガチな内容だから。それが分からないのは人間の心を失くした愚か者。監督とスタッフたちへのリスペクトが足りないよ! リスペクトが!」
ウサクが俺の言葉尻を捕らえて、すごい勢いでまくし立ててくる。
「作り手に対するリスペクトをもっと持てよ! クレジットにちゃんと名前乗せろよ!……あ、オレこっちの監督は嫌いだから別にリスペクトとかどうでもいいや」
だが、今はそんなことはどうでもいい。
ウサクたちの仮装に気圧されて忘れそうになっていたが、俺は弟の行方について尋ねた。
「まあ、それは結構だが。ハロウィンがどうたらこうたら声高に喋っている子供は見なかったか?」
「それ弟くん?」
「いや、違うが、弟を見つける手がかりを持っている」
俺はあえてボカして質問をした。
知り合いに尋ねるたびに身内の恥を忍んでいてはこちらが持たないからな。
仮装しているから、パッと見はその“子供”が弟だと気づかれない。
ということは順路を変えたのか。
ハロウィンイベントが盛んな、人通りの多い場所にいるかと思ったがアテが外れたか。
となると一体どこに。
早くしないと弟も俺もどんどん傷が広がっていく。
「事情は分からないけど、捜査の基本はプロファイリングだよ。その対象の傾向を分析すれば、自ずと選択肢は絞られるんじゃないかな」
あいつが行きそうなところ……。
タケモトさんの家だ。
タケモトさんは、俺たちマスダ家の隣に住んでいる人だ。
ハロウィンでは毎回お世話になっている。
弟なら絶対にタケモトさんのところへも向かうはずだ。
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