トンカツを食べるときに、生前の豚にいちいち思いを馳せたりはしない。
俺たちが何かをするとき、その“根源”だとか“理由”といったものには意外にも無頓着だ。
自分たちの歩く道筋が、元はどのような場所で、そしてどのように整備されているか。
これはあらゆることに言える。
例えばハロウィン。
なぜ仮装をするのか、なぜイタズラの代わりにお菓子を貰うのか。
俺たちは仮装をして、ただお菓子を貰う程度のお祭りだとしか思っていない。
今年のハロウィンも、俺たち兄弟にとってその程度の祭りになるはずだった。
「焦る必要なんてねえよ。登録されている場所は菓子のストックがたんまりあるから、なくなることはないんだよ」
今回のハロウィンは、俺も弟ともに菓子を貰う側として参加することになった。
正直こういうガキくさいのは苦手なんだが、両親に四六時中せがまれて参加せざるを得なかった。
前回のハロウィンでは弟たちのイタズラ騒ぎでひと悶着あったので、恐らく俺にお目付け役を兼任しろってことなのだろう。
「よし、準備できた」
あれだけ急かしてきたくせに、玄関のドアノブに手をかける俺を制止してきた。
「なんだよその格好」
「だったら分かるだろ。俺の格好を見て、自分の仮装に違和感ないの?」
弟の格好を凝視する。
確かアニメ『ヴァリアブルオリジナル』に登場したことのあるキャラだった気がする。
「それは……『ヴァリアブルオリジナル』のキャラのコスプレか?」
「そう、『ヴァリオリ』最恐と名高いエピソードで登場したブクマカ枢機卿」
あー、なんかそんなのいた気がする。
弟の格好は分かったが、それと俺の仮装に何の関係があるのだろうか。
「兄貴のそれ『ヴァリオリ』のキャラじゃないだろ。これから二人で色んなところを回ってお菓子を集めるのに、テーマに一貫性がないと格好がつかない」
なるほどね、それを気にしていたのか。
確かに俺の仮装はフランケンシュタインで、しかも怪物のほうではなくて博士のほうだ。
ファンタジーアニメの華やかなデザインとは不釣合いだと感じるかもしれない。
「理屈は分かったが、今から着替えてもいられないだろ。それに赤の他人のコスプレにテーマだの一貫性だの気にする輩なんぞいねえって」
「俺が気にするんだよ! 着替えてきてよ」
「バカ言うんじゃねえよ。お前が気にすることが問題だってんなら、それはお前の問題でしかない。だったら着替えるのはお前だ」
「俺にフランケンシュタインの仮装やれってか!?」
「ざけんな! そんな古くさい作品の格好なんかできるかよ。ましてや俺その作品まともに知らないし。仮装ってのは作品についてある程度知っている上でやらないと失礼だってルールがあるんだよ」
なんだそのルール。
「もういいよ。このまま行けばいいんだろ!」
先が思いやられるな。
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