2015-09-05

同僚の考える理想の結婚相手は(注:しょうもない結論

休み、僕は弁当を食べながら休憩していた。

休憩室では他の従業員も休んでいて、僕と同じように食事をしていたり、談笑していたりなど思い思いのことをしていた。

一際目立つのは、従業員たちの間でも特に人気のあるA崎さんと副店長が、二人で何か会話していることだろう。

「……ほんと大変です。もし理想相手出会えても、相手が私を選んでくれるかは別の話ですし」

「『選ぶ側』と『選ばれる側』、二つの側面を同時に考えないとアカからなあ」

聞き耳を立てるつもりはないのだが、僕の近くで会話をしているものから嫌でも内容は耳に入ってくる。

「なかなかいい人と出会えないんですよねー。そこまで選り好みしているつもりないんですけど」

A崎さんは現在婚活をしているらしく、相手に求める条件やらで副店長相談しているようだった。

この職場で既婚者は店長と副店長くらいなので、妥当相談相手だろう。

「まあ『選ばれる側』でもある以上、条件が緩いからってそう簡単にはいかないやろ」

「それはそうなんですけど、別に高学歴高収入』とか高望みしているってわけでもないのに、こんなに出会えないんだなあ、て」

「ふうん……ちなみにどんな感じの条件?」

「ザックリいうなら、私と同じくらいのスペックでいいんですよ。そこそこルックスよければ言うことなしなんですけど」

「ほ……ほぉ~」

「……あ! そういうのがどうでもいいと思えるような人格者なら、実のところスペックとか関係ないんです。ルックスとかが決め手になるわけじゃないんですよ、本当に」

「いやいや、何に価値を置くかは自由やて」

「そ、そうですよね。『見た目で選ぶなんて酷い奴だ』みたいに思われたんじゃないかと焦っちゃいました」

「思わへんて。外見がどうとか中身がどうとか、判断基準に是非なんて求めへんから

「とはいっても、『だけ』で選んだらさすがにアレですよねえ?」

「まあ悪いとかは別として、単純やとは思うな。その『だけ』に入る言葉が何であれ」

「やっぱり今の条件くらいが丁度いいんでしょうか」

「それはA崎さんが決めようや。未来のもろもろ考えるんやったら、納得のいかない相手結婚したって後悔するのは目に見えとるで」

「うーん……あ、もうすぐ休憩終わりですね。そろそろ持ち場に戻りますね。相談ありがとうございました」

A崎さんは会釈をすると、早足で休憩室を出て行った。

店長は、A崎さんの出て行った方角を見ながら、僕の近くにあるイスに腰掛けた。

それからつぶやくように僕に話しかけてきた。

「難儀やなあ……」

「え……ああ、何がですか?」

「いやね。アタシが結婚したきっかけは見合いなんやけど……相手は叔母ちゃんからの紹介で、まあお節介ってやつや」

「でも、その『お節介』で今の店長結婚したんですよね」

「やから結果的感謝はしとるよ。でも、あの子はその『お節介』を、金を払ってまでして貰っているわけやろ?」

「まあ……様式とか、正確には違うと思いますけれど」

「なんかなあ。自由恋愛結婚が認められた社会になってきてんのに、結局はそういう需要もあるんやなって」

手段を選択できるってことが大事なんでしょうね」

「そうなんか……しかし、A崎さん分かっとんのかなあ」

「?」

「『私と同じくらいのスペック』って、つまり学歴だとか収入だとか、他にも容姿だとか趣味だとか、諸々の相性を合算した条件やろ」

総合的な相性で決めるのは健全だと思いますが」

健全ではあるけれど、A崎さんが思ってるほど緩い条件ちゃうで。各ハードルが高くなくても、数が増えれば難易度は上がっていくし」

「種目がハードル飛びじゃなくて、ハードル走になっているわけですか」

「『高学歴高収入』という条件が高望みっていうのも疑問やし」

「高いハードルのほうが飛びにくいとは限らない、と?」

「『スペックなんてどうでもいいから、それでも一緒になりたい人』と比較しての話や。あれはあれで厳しい条件やと思わん?」

「そんなこと言い出したら、ほとんど『高望み』になりますよ。それに出会いは水物ですから。僕たちがA崎さんの首根っこを捕まえて、『だから結婚できないんだよ!』というのは違うと思いますし」

「確かになあ……というかワタシら、他人の話で盛り上がりすぎや」

「些か下世話でしたかね。昼休みももうすぐ終わりますし、僕も持ち場に戻ります

その数ヵ月後、朝の集会でA崎さんが結婚の報告をした。

僕はあのときの話は忘れており、機械的な祝福を皆と粛々と行っていた。

その日の昼休み、A崎さんは結婚相手のことを周りの従業員に色々語っていた。

プロポーズが高級レストランだとか、名門校の出とか。

家系が~、エトセトラ

遠巻きにそれを眺めていると、僕の近くにいた副店長が呟いた。

ある意味妥協しよったな」

僕はその言葉で、数ヶ月前にあった話を思い出す。

店長言葉調子に悪意はなく、何の気なしに言った様子だった。

僕は「いやいや~」と、苦笑いしながら月並みなことを返していた。

まあ、A崎さんは幸せそうに見えたし。めでたし、めでたし。だろう。

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