家賃と奨学金の支払が呪いのようにつきまとっていて、自分は常に金欠だと思っていたがそうでもないように思えた。
物心ついたころには両親が離婚しており、母子家庭となった。すぐに生活保護の受給が始まった。
中学はいじめが原因で不登校になってしまった。離婚した父親はこの頃に死んでしまったらしい。
中学卒業後は少なくとも高卒の資格が欲しいと考え、どうにか定時制高校に進学した。
低所得者向けの公営住宅に住んでることを知られたくなかったため、年賀状のやり取りなどは控えていた。
自分の歯並びが悪いことを気にしており、口を開けて笑うことに抵抗があった。
当時は生活保護へのバッシングが特に強く、自分が生活保護受給世帯であることを周りに知られたくなかった。
理由は覚えていないが担任には生活保護の件を知られており、内心どう思われているかいつも気にしていた。
自分の進路が不安であり、一生落ちこぼれとして、底辺として生きていくのだろうとかと自問していた。
彼女ができても上記の怯えが原因だったのか、惨めな結果に終わった。
自分の羞恥心と怒りのエネルギーを良い方向に発揮した結果、そこそこの大学に進学できた。
貸与型奨学金に抵抗はあったが、人生を変えるため、退路を断つために借りることにした。
いろいろとあって、大学院に進んだ。
就活は推薦であっさり終わり、いわゆる大企業から内定をもらった。
社会人として働き始めて数年が経過した。
リモート勤務が許可されているので本来の通勤時間は好きにできる。
夜更かしして始業直前に起きても誰からも何も言われないのが素晴らしい。
上司からの評価はよく、毎年基本給が増えている。今年の4月は大きく給料が増えるらしい。
そして冒頭に戻る。
最近スーパーに行って買い物をするときに値段をみないことが増えた。
欲しいから、必要だから買うのであって、値段は常識の範囲内ならどうでもよいのである。
歯列矯正のブラケットがついに外れたので口を大きく開けて笑うことに抵抗がなくなった。
バナナやクッキーを噛んだ跡の歯列が見事で、まじまじと見てしまうことがある。
住所を知られても何も気にならなくなった。
一人暮らしなのでド深夜にdiscordで通話しても何も言われなくなった。
ドラム式洗濯機を買ったので雨でも気軽に洗濯ができるようになった。
以前よりも人と話すのが楽しくなった。
野心が芽生えてきたため転職を考えるようになった。
常に感じていた後ろめたさが気にならなくなってきた。
しかし、「あの」自分がスーパーで値段を気にせずに買い物をするという事実が異様に感じた結果、この文書を書いている。
今、この文章を書いているがとにかく奇妙な感じがする。
普段自分についての文章を書くことはない。なぜ自分がこの文章を書いているのかわからないが、これもきっと良い意味での変化の1つなのだと思う。