2019-10-20

めしばな刑事タチバナ二次創作名古屋アイストライアングル

スガキヤソフトクリーム増税で値上がりしても160円ミニなら110円。この値段でこのクオリティソフトクリーム東海地方学生たちの青春を支えているといっても過言ではないでしょう」

 東京への出張の帰り道、名古屋に向かう新幹線の中。自由席で三人がけの通路側を確保し、ようやく終わった出張の疲れを癒すため寝入ろうとしたとき、隣の二人組の会話が耳に入ってしまった。話の入りは聞いていなかったが、スガキヤという馴染みのある単語が耳についたのだろう。俺は住まい三重だが、大学職場名古屋であるため所謂ナゴヤメシには思い入れがあった。確かにこのヒゲ中年男性の言う通り、スガキヤソフトクリーム学生時代よく食べた。

「そうは言ってもラーメン屋でしょ? さすがにソフトクリームだけを注文するわけにもいかいから、学生ラーメンの値段は重いんじゃないですか?」

 若い男が質問をする。なにもわかっていない。

「なにもわかっていないな」

 声に出してしまっていた、と誤解するほど中年男性シンクロしてしまった。

スガキヤラーメンオーソドックスメニューで330円。卵を落としても380円と非常にリーズナブルなんだ。それに加えて、スガキヤイオンなどのモールに出店していることが多く、ソフトクリームだけなんて頼み方も全然アリだ」

 より補足するなら、大学パチンコ屋にも出店している。かくいう俺の通っている大学にもスガキヤのコーナーがあった。

「ふーん」

「おいおい、随分冷めた目だな」

「いやだって、330円ラーメンと言われても。僕が通ってるリストランテなら水ですよ」

「そのキャラなんか懐かしいな」

「そうですか? この前のグラタンときとかもこういう話をしたと思いますけど」

「そ、そうだったな……」

ラーメンはいいですから、その名古屋アイストライアングルの一つ目がスガキヤソフトクリームということですね」

 名古屋アイストライアングル? 全く聞いたことのない言葉だ。名古屋に有名なアイスなんて他にあっただろうか。

「うむ。110円〜160円というソフトクリームの値段帯としては低層ながらも味量ともに中々のクオリティだ。ちなみに、このミニレギュラーの差は店員の目分量らしいから、新人バイトが多い4月5月ミニを注文してもレギュラーの量でくることがままあるらしい、が俺はまだ当たったことはない」

 この男詳しいな。俺は一度、ミニなのにレギュラーサイズどころか、明らかにふざけた量のソフトクリームを出されたこともある。

「110円と160円の差なら素直に160円払いましょうよ」

「次だ」

 中年男性が手で若い男のツッコミを制し、続きを語り出した。そうだ名古屋アイストライアングルのあと二角だ。

「次は、東京でも食えるが、コメダシロノワール

 そうか、それがあったかアイスという枠で考えたことがなかった。

「あー、甘味部の皆さんに奢ったっていう」

「そうだな。なのでここでは紹介を省略しよう」

 む。残念だ。俺なら、あえて「おかげ庵の抹茶シロノワール」あたりを勧めたいところだ。おかげ庵は、どこにでもあるコメダと違って、なんと愛知県に7店舗しかない希少な店舗だけに、この中年男性も知らないことだろう。特に杁ケ池のあたりにある店舗はよく通ったものだ。

「そして名古屋アイストライアングル形成する最後一角が……」

 ごくり、と唾を飲み込んだ瞬間、携帯電話が鳴り出した。

タチバナさん、課長から電話です」

「おっと。お兄さんすいませんね」

 そう言いながら二人は電話をしてもよいデッキへ移動し始めた。いやそれより、アイストライアングル最後はいったい……

「お兄さんすいません煩かったですよね」

 喋りかけられてしまった。よほど気になる顔をしてしまったのだろうか。

「い、いえ……」

 名古屋アイストライアングル、いったいどの店のなんのアイスだったのだろうか。どうもあの中年男性物言いからして、大須や栄にある女学生向けのフォトジェニックアイスクリームではなさそうだ。ううむ気になる。

 あの店だろうか、こちらだろうか、いやでも、しかし…… 早く知りたい。そう考えを巡らせていると、いつのまにか新幹線静岡の辺りを走っていた。名古屋はまだ遠く、あの二人組は戻ってくる気配がない。

コーヒーおつまみなどご用意しています

 そんなことに思いを馳せていたら、新幹線の車内販売がやってきた。少しきを落ち受けるために、コーヒーでも飲むか。

「すいません、コーヒーいただけますか」

はいホットよろしかったでしょうか

 無言でうなづく。

「ご一緒にアイスクリームはいかがでしょうか? コーヒーとご一緒ですと、60円お得になります

 ずっとアイスのことを考えていただけに渡りに船だ。ここでアイスクリームを頼まない手はないな。

「じゃあお願いします。バニラで」

こちら大変硬くなっておりますので、少ししてからお召し上がりください」

ありがとうございます

 そういって、席の前のテーブルを倒し、コーヒーアイスクリームを置いてくれた。しまった、よく考えたらあの二人が帰ってきたときに少し気まずいな。まあ、良いか。今はとにかくアイスが食べたい。コーヒーを飲みながら、アイスが程良い硬さになるのを待つ。それにしても、こうしてアイスクリームが手元にあるからこそ思うのだが、名古屋アイストライアングルはいったいなんなんだろうか。アイスを食べながら、アイスのことを考える、典型的デブの発想だな、と自分面白くなってしまった。

 名古屋アイストライアングルの、スガキヤコメダ名古屋に戻ってからいくらでも食べられるが、最後一角の正体を見極めないと、いくらアイスを食べてもモヤモヤしていまいそうだ。

 名古屋アイストライアングル……

 いったい……

 目の前のアイスクリームは、まだ硬かった。

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