2018-11-25

[] #65-8「短くて長い一日」

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どうやらガイドは、夏時間というものすら知らなかったようだ。

タイムスリップをしたり平行世界を行き来する輩が、そんなのでよく今までやってこれたな。

あの世界線は夏時間っていうのが導入されているんだ。夏の特定時間帯、意図的に時刻をズラしているんだよ」

「……何でそんなことを?」

「夏って太陽が照っている時間が長いだろう。だからそれに合わせて時刻設定を柔軟に変更して、仕事とかの効率化を図るんだよ」

「……何でそんなことを?」

説明をしても全く同じ返しをしてくるあたり、ガイドはかなり困惑している。

こいつの文明レベルでは、よほど理解の及ばないことらしい。

まあ俺の生きる時代でも、「そういうことをやっていた国もあった」と授業で習う程度だからな。

後世に伝わっていないのも仕方ないか


タネが分かれば何とも肩透かしな話である

元の世界に戻る際、ガイドは『別世界時間』をそのまま反映させてしまっていた。

普通ならそれでも問題なかったのだが、その『別世界時間』は『夏時間サマータイム)』だったんだ。

夏時間のない俺たちの世界と繋いだ際にズレが生じ、時間軸が分裂しかけたってわけだ。

タイマーを見たとき体感よりも時間の進みが違うなあとは思っていたけど、違和感の正体はそれだったのかあ」

「寝起きの悪い人間が早く起きるために目覚まし時計をズラして設定するが、ウッカリそのことを忘れて急いで学校に来てしまったみたいな感じだな」

「その例えは分かりにくいけど、これでやっと原因は分かったよ。すぐにその時差を反映させて再設定するね」

ガイドはそう言うと、本当にすぐ設定を反映させた。

辺りに漂う、言い知れない違和感がなくなっていくのが分かる。

多種多様なドッペルも一つに集まっていく。

「よし、成功! これで世界は元通りだ!」

元に戻ったドッペルは、未だ足元がおぼつかない。

吊り橋の上で揺られすぎた後の弟みたいだ。

「……なんか変な感じ」

「分裂しかけていた世界を繋げたからね。分かれかけた世界で起きた記憶と混濁しているんだろう。まあ、直に馴染むさ」

まったく、何ともせわしないパラレルワールド体験だった。

有り得たかもしれない可能性ってものを、もっと楽しめるものだと思っていたが。

自身別世界でも代わり映えせず、細かな世界差異不和しか引き起こさず。

これならテーマパークで遊んでいたほうが幾分かマシだったな。

「そういえば……なあ、ドッペル。お前は別世界でも、趣向こそ違えど変装はしているんだな」

マニッシュっぽくもあり、フェミニンっぽくもある、中々シャレた着こなしだった。

変装バリエーションを増やすために、あの世界での格好も参考にしてみたらどうだ?」

「……いや、あれ普段着から

予想外の答えが返ってくる。

俺の知っているドッペルの服装からして、明らかに傾向が違うんだが。

「ということは、俺と会うときはいつも変装しているってことか」

だって……なんか恥ずかしいし」

ドッペルは人見知りが激しい性格で、それを抑えるために変装をしている。

そうすることで違う自分を装ったような気分になり、何とか他人とも接することが出来るからだとか。

そのことは知っていたが、俺が今まで見てきた姿は全て変装だったっていうのは驚きだった。

最近はかなり打ち解けてきたと思っていたんだが、どうやら気のせいだったらしい。

別世界の俺なら、もう少し上手くやれているのだろうか。


…………

こうして俺たちのパラレルワールド旅行は終わった。

あれだけ長々とやった割に、この世界では2時間ほどしか経っていないらしい。

そのくせ“お土産”は残っているのだから大したものである

「今年ってサマータイム導入されたんだよな?」

「いや、一応確認してみたが、されてないっぽいぞ」

「ええ? サマータイムあったと思うんだけどなあ」

翌日、クラスメート夏時間の話で持ちきりだった。

多くの人たちが、あるはずのないサマータイムを「あった」と認識していたんだ。

その他にも電気ネズミ尻尾デザインお菓子ロゴにあるハイフンの皆無。

微細な記憶違いを起こす人が多くいた。

どうやら世界の再結合による弊害は、俺たち以外にも起こっていたらしい。

確か、こういう現象には名前が付いていた気がするが……思い出せないな。

……久々にSF小説でも読んでみるか。

(#65-おわり)
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