……と言い切ってしまうと嘘になる。
だけど現状を顧みて無いものねだりをしたり、管を巻くほどじゃない。
それでも、たまに今の自分とは違う“可能性”について想像することは誰にだってあるはずだ。
野球が好きでもないのにメジャーリーガーの自分を想像したり、テレビや雑誌のインタビューでロクロを回したりしているのを思い浮かべる。
無益だが、苺の先端だけ食べるように甘美だ。
だが、実際の俺たちはそもそも苺を食べられない。
食べられたとしても、そこまで甘くない部分も食べきって、食べないヘタの部分の処理も要求される。
……といった例えをクラスメートにしたことがあるが、評判は非常に悪かった。
いい例えだと思うんだけどなあ。
まあ、つまり……今回したい話ってのは、この苺の先端をチラつかされたことから始まる。
今から数ヶ月ほど前のことだ。
その日はガイドって名乗る奴が、性懲りもなく俺の家に乗り込んできた。
「やっぱり任務を円滑に行うためには、キミに協力してもらうのがいいんだよ」
こいつは自分が遥か未来から、任務のためにやって来たとのたまっている変人だ。
現地の協力者として俺が適任らしく、以前からこうやって勧誘を迫ってくる。
何の根拠があって、こいつがそんなことを言っているのかは知らない。
あと任務とやらの具体的な内容も知らない。
興味もないが。
「いや、そんなこと俺は知ったこっちゃないんだが」
当然、俺はそれをハッキリと断り続けている。
「何度も言っているが、俺はお前を根本的に信頼してねえんだよ」
「そう言うと思ったよ。だから今回はボクを信じてもらうよう、未来のアイテムを持って来たんだ」
「『今回は』って、いつもそうだろ」
「いや、全然違うよ。今までのは遠まわし気味だったかなあとは思っていたんだよね。だから今回は上層部に相談して、飛びっきりのをやるから」
こんな感じで、こいつは俺から信頼を勝ち取るために未来の科学力に頼る。
俺が信じていないのは、こいつが本当に未来からきたのだとか、そういうことじゃないんだが。
それが伝わる相手なら、今もこんな押し問答をやっているわけもない。
で、仕方がないので俺は毎回こいつの紹介するアイテムを表面上レビューしている。
そして最終的に、信頼に値しないことを納得してもらった上で、丁重にお帰りいただくということを繰り返しているわけ。
未来がなんだのという話の規模に対して、やっていることは押し売りと客の戦いのようであり、時代錯誤も甚だしい。
今回もそうなる筈だったし、そのつもりだった。
≪ 前 「一緒に別の次元に行ってみよう! そうすればキミも、ボクの言っていることを信じるはずだ」 『別の次元』 その言葉が俺の琴線に触れた。 「別の次元ってのはアレか。パ...
≪ 前 まさかドタキャンじゃないよな。 今回は俺も一応モチベーションがあったのに、ここにきてそれが減少していくのを感じる。 これは、アレだ。 大した理由もないのに、無性に...
≪ 前 穴を通り抜け、最初に目に映ったのは同じ景色。 いや、“同じような景色”だというべきか。 決定的な違いはすぐに分かった。 俺たちが先ほどいた場所は、ガイドの居候先で...
≪ 前 ニセ弟は沈黙を貫いている。 いつだ。 いつ入れ替わった。 「なあガイド、別次元にトんだ場合にこんな感じの現象が起きることはあるのか」 「断言はできないけど……もしそ...
≪ 前 「はい、開いたよ」 「よし、行くぞドッペル」 俺は、未だ足元のおぼつかないドッペルを抱える。 「じ……自分で歩けるよ」 そう言ってドッペルは降りようとしているが、そ...
≪ 前 今そんなことに思いを馳せるとは、我ながら危機感がないとは思う。 だが、こうして悠長に構えているのには理由がある。 最悪、『次元警察』ってヤツが来れば元に戻してくれ...
≪ 前 どうやらガイドは、夏時間というものすら知らなかったようだ。 タイムスリップをしたり平行世界を行き来する輩が、そんなのでよく今までやってこれたな。 「あの世界線は夏...
おお。ついに完結したのか お疲れ様