2018-11-21

[] #65-4「短くて長い一日」

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穴を通り抜け、最初に目に映ったのは同じ景色

いや、“同じような景色”だというべきか。

決定的な違いはすぐに分かった。

俺たちが先ほどいた場所は、ガイド居候である家屋前。

人通りの少ない場所に古臭い一軒家がポツリとあるはずだが、それがなかった。

「シロクロの家がないね……」

シロクロってのは色の話じゃなくて、家主の名前のことだ。

そいつガイドとは別の意味不思議人間で、ひょんなことからこの町に住み着いている流れ者のはず、なのだが……。

「別の次元からね。可能性ってのは個々人の選択因果が複雑に結びついている。それらがどこかで少しでも変われば、こういうことになるのさ」

シロクロの人格は、有り体に言ってしまえば社会不適合者のソレに近い。

不憫に思った弟とその仲間たちは、そこで一計を案じる。

「シロクロは『アレコレ病』だ」と思いつきの精神病を吹聴したんだ。

それが巡り巡って嘘から出た真となり、シロクロは市民権を得ることができた。

そんなシロクロの住んでいるはずの家が、ここには、この世界にはない。

「シロクロのやつ、どこにいるんだろう……」

そう呟く弟の声が、どことなもの悲しく聴こえる。

いるはずの仲間がいないのだから当前だ。

「この世界では、そもそもシロクロはここに来ていないのかもな。或いは別のところに移り住んだか……」

可能性は色々と考えられるが、考えたところで意味がない。

そんなの分かりようがないし、分かったところで所詮は別次元での話だからだ。


…………

それから様々な場所を練り歩いた。

「向かいに住んでいるはずのムカイさんも、ここにはいないのか」

どこも見慣れた景色のようで、どこかが違うと感じさせる。

「ああ、近所のコンビニも違う。エイト・テンじゃなくて、サブファミリーマートになってる」

中華料理のところはケーキ屋になってる。なのに、その隣に建ってるケーキ屋は同じなのか……」

市長も違う人だね」

「まあ、それはどうでもいいんだが」

パッと見は自分たちのいる町と同じなのに、何ともいえない違和感

サイバーパンクというほど独特な世界ってわけでもなくて、なんというか……洋ゲーとかで出てくるニッポンみたいな感じだ。

「ぼ、俺たちだ」

「見たことない格好だが、片方はドッペルだろ。お前、自分の見分けくらいつけろよ」

「……そうだね」

今、まさに別次元世界を歩いているという実感と共に、居心地の悪さも俺たち兄弟に与えてくる。

「何か気持ち悪くなってきた……」

弟はそのせいで酔ってしまったらしく、足元がフラついている。

今にも倒れそうなほど弱っているように見えたので、俺は後ろから背中を支えてやった。

「あ、ありがとう……」

弟は申し訳なさそうに縮こまった。

何だか奇妙だ。

強い違和感が押し寄せてくる。

この世界もそうだが、弟もいつもと様子が違う。

ガイドに対しての態度もそうだが、何より俺に対して随分と殊勝だ。

まさか次元の弟なんじゃないかと疑ってしまうほどである

この次元突入する際は弟と一緒に入ったので、そんなわけがないのだが。

まあ恐らく、慣れない環境に緊張して疲れている、といったところなのだろう。

こいつは大雑把に見えて、変なところで繊細だからな。

ちょっと休むか」

「だ、大丈夫ありがとう、兄ちゃん

しかし俺の突拍子もない発想は、その一言でいきなり現実味を帯びてしまった。

「……“兄ちゃん”って言ったのか?」

弟は俺のことを「兄貴」と呼ぶ。

それは弟が物心つく頃から、ずっと変わっていない。

「お前、俺の弟じゃないな?」

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