いや、“同じような景色”だというべきか。
決定的な違いはすぐに分かった。
人通りの少ない場所に古臭い一軒家がポツリとあるはずだが、それがなかった。
「シロクロの家がないね……」
シロクロってのは色の話じゃなくて、家主の名前のことだ。
そいつもガイドとは別の意味で不思議な人間で、ひょんなことからこの町に住み着いている流れ者のはず、なのだが……。
「別の次元だからね。可能性ってのは個々人の選択、因果が複雑に結びついている。それらがどこかで少しでも変われば、こういうことになるのさ」
シロクロの人格は、有り体に言ってしまえば社会不適合者のソレに近い。
不憫に思った弟とその仲間たちは、そこで一計を案じる。
「シロクロは『アレコレ病』だ」と思いつきの精神病を吹聴したんだ。
それが巡り巡って嘘から出た真となり、シロクロは市民権を得ることができた。
そんなシロクロの住んでいるはずの家が、ここには、この世界にはない。
「シロクロのやつ、どこにいるんだろう……」
いるはずの仲間がいないのだから当前だ。
「この世界では、そもそもシロクロはここに来ていないのかもな。或いは別のところに移り住んだか……」
そんなの分かりようがないし、分かったところで所詮は別次元での話だからだ。
「向かいに住んでいるはずのムカイさんも、ここにはいないのか」
どこも見慣れた景色のようで、どこかが違うと感じさせる。
「ああ、近所のコンビニも違う。エイト・テンじゃなくて、サブファミリーマートになってる」
「中華料理のところはケーキ屋になってる。なのに、その隣に建ってるケーキ屋は同じなのか……」
「市長も違う人だね」
「まあ、それはどうでもいいんだが」
パッと見は自分たちのいる町と同じなのに、何ともいえない違和感。
サイバーパンクというほど独特な世界ってわけでもなくて、なんというか……洋ゲーとかで出てくるニッポンみたいな感じだ。
「ぼ、俺たちだ」
「見たことない格好だが、片方はドッペルだろ。お前、自分の見分けくらいつけろよ」
「……そうだね」
今、まさに別次元の世界を歩いているという実感と共に、居心地の悪さも俺たち兄弟に与えてくる。
「何か気持ち悪くなってきた……」
弟はそのせいで酔ってしまったらしく、足元がフラついている。
今にも倒れそうなほど弱っているように見えたので、俺は後ろから背中を支えてやった。
「あ、ありがとう……」
弟は申し訳なさそうに縮こまった。
何だか奇妙だ。
強い違和感が押し寄せてくる。
この世界もそうだが、弟もいつもと様子が違う。
ガイドに対しての態度もそうだが、何より俺に対して随分と殊勝だ。
この次元に突入する際は弟と一緒に入ったので、そんなわけがないのだが。
まあ恐らく、慣れない環境に緊張して疲れている、といったところなのだろう。
こいつは大雑把に見えて、変なところで繊細だからな。
「ちょっと休むか」
しかし俺の突拍子もない発想は、その一言でいきなり現実味を帯びてしまった。
「……“兄ちゃん”って言ったのか?」
弟は俺のことを「兄貴」と呼ぶ。
「お前、俺の弟じゃないな?」
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