「一緒に別の次元に行ってみよう! そうすればキミも、ボクの言っていることを信じるはずだ」
『別の次元』
「別の次元ってのはアレか。パラレルワールド、平行世界的なヤツか?」
今までにない俺の好反応に、ガイドもたじろいでいた。
「んー……まあ広義的には」
「そうか……やっと分かってきたようだな。そういうのでいいんだよ」
「どういうの?」
俺が知っている限り、こいつが今までやってきたことは尽く期待外れだった。
人の家の庭を焼き払う謎のオブジェクト。
生身の俺に妨害されただけで、何もできなくなる程度の機能しかないダサいスーツ。
色々なものを無理やり詰め込んで何がやりたいか分からない、使い勝手の悪そうな多機能端末。
将来生まれてくる子供の人生をシミュレーションできる装置だの、罪と罰を測ることができるメーターだの。
こいつにとっては未来の科学力を証明しているつもりなのだろうが、いずれも胡散臭いか感性がズレている。
もっと普遍的なイメージに応えるようなものなら良いのに、どれも頭でっかちだったからコメントに困っていた。
シンプルに空を自由に飛べるだとか、玩具の兵隊だとか、世界旅行に行けるようなものとかでいいのに。
いつもヒネたことばかりやってくるから、凄いかどうかイマイチ分からないし、興味も湧いてこない。
だが今回、やっとマトモなものが出てきてくれたようだ。
「じゃあ、その別次元について、話を聞こうか」
今でこそ落ち着いてはいるが、ここにきてその頃の気持ちが再燃していく。
そして出発当日、早朝。
別次元に与える影響を最小限にするため、身に着けるものや、持ち物は最低限だ。
それでも俺がOKしたのは、もちろんパラレルワールドというものに惹かれたのもあるが、“とある条件”を飲んでもらったからだ。
「後は弟くんが来るのを待つだけだね」
俺は同行者、つまり弟も共に連れて行くことを条件にした。
見知った身内でもいれば、多少はマシになるだろう。
……だが、弟が来るのが遅い。
後から来ると言っていたが、まさか二度寝しているんじゃないだろうな。
「色々とこっちにも事情があるんだよ。好き勝手に次元を跨ぐと厳罰になるから、あんまり融通利かすわけにはいかないんだ」
「じゃあ、このままだとお前と二人で旅行ってか?」
「まあ、元から二人で行く予定だったんだし同じことでしょ」
勘弁してくれ。
こいつと長時間一緒とか、補正をかけてもロクな思い出にならないぞ。
今の自分の人生に、自分自身に、これといって不満はない。 ……と言い切ってしまうと嘘になる。 だけど現状を顧みて無いものねだりをしたり、管を巻くほどじゃない。 それでも、...
≪ 前 まさかドタキャンじゃないよな。 今回は俺も一応モチベーションがあったのに、ここにきてそれが減少していくのを感じる。 これは、アレだ。 大した理由もないのに、無性に...
≪ 前 穴を通り抜け、最初に目に映ったのは同じ景色。 いや、“同じような景色”だというべきか。 決定的な違いはすぐに分かった。 俺たちが先ほどいた場所は、ガイドの居候先で...
≪ 前 ニセ弟は沈黙を貫いている。 いつだ。 いつ入れ替わった。 「なあガイド、別次元にトんだ場合にこんな感じの現象が起きることはあるのか」 「断言はできないけど……もしそ...
≪ 前 「はい、開いたよ」 「よし、行くぞドッペル」 俺は、未だ足元のおぼつかないドッペルを抱える。 「じ……自分で歩けるよ」 そう言ってドッペルは降りようとしているが、そ...
≪ 前 今そんなことに思いを馳せるとは、我ながら危機感がないとは思う。 だが、こうして悠長に構えているのには理由がある。 最悪、『次元警察』ってヤツが来れば元に戻してくれ...
≪ 前 どうやらガイドは、夏時間というものすら知らなかったようだ。 タイムスリップをしたり平行世界を行き来する輩が、そんなのでよく今までやってこれたな。 「あの世界線は夏...
おお。ついに完結したのか お疲れ様