いま最も人気のあるアニメといえば『ヴァリアブルオリジナル』、通称『ヴァリオリ』だろう。
異世界で生まれ変わった主人公が仲間たちと共に冒険をしつつ暴虐共をぶちのめす、完全オリジナル王道ファンタジーだ。
俺個人は別にファンではないが、それでも知っているのはそれだけヴァリオリが人気だということでもある。
今回は、そんなヴァリオリの人気にまつわる話をしよう。
『ヴァリオリ』が第4シーズンのクライマックスを迎えようとしていた頃だ。
とうとう四天王の一人であるスコロペンドリドを打ち倒したことで、ファンの盛り上がりは最高潮だった。
次のシーズンまで間があるため、その熱を保ちたかったのだろう。
俺にとっても、投票中のファンたちの奮闘ぶりは記憶にも新しい。
身近な観測範囲内でも、弟やバイト仲間、クラスメートなどのファンたちの眼光は鋭かったからな。
まあ、そいつらから聞かされるのはもっぱらロクでもないものだったが。
「いや、ああいうのってファンがやるべきもんだろ。何で俺がそんなことしないといけないんだ」
「一理あるけど、実際のところファンたちの“度合い”なんて誰にも決められないだろ。広い意味では兄貴だってファンとすらいえるし、そうじゃなかったとしても兄貴には投票する権利があるんだ。だったら、やるだけやっても誰も責められない」
そう言われて頑なに断れるほどの理由もないため、仕方なくテキトーに投票した。
そのことを何気なくバイト仲間のオサカに話したら、やたらと詰め寄られた。
「マスダ、そういうのって正直やめてほしい。作品のことを大して好きでもない人間が安易に投票することを容認すれば、そいつらが寄り集まってネタ投票とかする悪ノリにも繋がりやすいわけだから」
まあ、当然といえば当然だ。
だから臨み方も違ってくる。
結果が発表された後もロクでもなかった。
「ランキングの結果だけどさあ、そもそも投票方法がイマイチなんだよなあ。ネット投票しかなくて、しかも1人1キャラ、1エピソードまでってのはなあ」
「そうしないと集計が大変だろう。それに組織票とかが発生するだろうし」
「そんなの対策としては意味ないって、いくらでもズルなんて出来るんだから。もっとシステムレベルで最適化しつつ、フェアなやり方をすべきだよ」
まあ、大した理屈じゃない。
こいつの場合、ランキングの結果に納得できなかったから、過程にケチをつけることで自分の中で帳尻を合わせているだけだ。
もし自分が納得できるような結果だったら、多少の粗があっても同じような主張はしなかっただろうからな。
「他のやり方ってどういうのだ? ことわっておくが、現実問題で十分可能な方法にしてくれよ」
「……もう、その断りを入れたら僕が答えられないの分かって言ってるだろ」
そんな感じで、俺にとっては大した出来事じゃあない。
だが後に、この裏で凄まじい激闘があったことを俺は知ることになる。
≪ 前 俺がその一件の裏事情を知ることができたのは、父がヴァリオリのアニメスタジオで働いていたからだ。 人気投票の結果発表から数日経った頃、父は仕事仲間を連れて家に帰って...
≪ 前 「どうしました?」 「このエピソードの方のランキングなんだが、第5位が『こんな感じのスクロールありませんか?』になってる」 第23話『こんな感じのスクロールありません...
≪ 前 ヴァリオリ人気投票は、あえて面倒くさい手続きを要求するシステムになっている。 1人につき1回のみで、アカウントとも紐づいているので連続投票は出来ない。 もしもそれを...
≪ 前 しかし、運営のマツウソさんから返ってきたのは、「不正だと思われる投票の動きはなかった」というものだった。 「お願いします。もっと調べてください。明らかに第23話が5位...
≪ 前 「おいおい、まさかそんな……」 「だけど、辻褄は合います」 実のところ、シューゴさんもその可能性はチラついていた。 しかし得意先を疑うなんてことは、できればやりた...
≪ 前 有るかどうかも分からない、あったとして巧妙に隠されている可能性が高い。 二人は数字の羅列を注意深く凝視した。 どこかに異常な数字はないか、矛盾点はないかを探す。 ...