「どうしました?」
「このエピソードの方のランキングなんだが、第5位が『こんな感じのスクロールありませんか?』になってる」
ヴェノラの仲間であるリ・イチが、新しい巻物を求める話だ。
しかし漠然とした要求をするため、それに付き合わされるヴェノラたちは悪戦苦闘。
最終的に町の住人全てを巻き込んでオススメの魔法書談義になるというコメディ回だ。
「どうしました?」
同じく会議室にいたマツウソさんが、シューゴさんに尋ねてきた。
「思ったより順位が低かったとか?」
「いや、高すぎるんだよ」
なぜなら視聴者目線からみれば、この回は本筋とは関係のない話だからだ。
シューゴさんたち作り手目線から見ても、スケジュールの調整も兼ねてローコストで作られたものだ。
最低限の体裁こそ調っているものの、冒険活劇をメインにしている本作においては明らかな箸休め回。
メイン視聴者層に、ことさら評価されるようなエピソードではない。
「そういわれれば、そうですね」
「少なくとも、他のエピソードをさしおいてまで、これが5位になるというのは不自然かもしれないですね」
一部のファンはこれを推すこともあるらしいが、それが高い順位であるというのには違和感があった。
シューゴさんに指摘されて、父とフォンさんもその違和感に気づいたようだ。
ただ、マツウソさんだけはそう思っていなかった。
「とはいえ、投票しているのはシューゴさんたちではないですからねえ。割と評価の高いエピソードなんでしょう。そう結果は物語っています」
マツウソさんの所属する会社は、ヴァリオリのシーズン1時代からスポンサーだった。
そして彼はその重役であり、スタジオに大した要求をするわけでもなく制作者本位で作らせることを方針としている。
父たちにとっては、いわば上客といえる存在だ。
だが、それ故に現場に立つ人間の感覚を理解しきれていないところがあった。
シューゴさんたちの違和感が、個人の価値観レベルの話だとしか認識していない。
「作品は公表された時点で作者の手元から離れるといいますしね。今回の結果も、そういうものじゃないでしょうか」
最もらしいことは言ってはいるものの、その実は無理解からくる正論だ。
しかし、強く否定できるほどの確信がもてないのもあって、父たちはその日の会議を粛々と終わらせた。
「ん~、やっぱりおかしいよなあ」
「どこかの掲示板で、組織票を募っていたりしていないか。マスダさん、片手間でいいからネット調べといてくれねー?」
父はシューゴさんほど、この件に強い違和感は覚えていなかった。
だが、このままシューゴさんに引きずられても仕事に影響が出るかもしれない。
後顧の憂いを絶つため、父は調査を始めることにした。
俺がその一件の裏事情を知ることができたのは、父がヴァリオリのアニメスタジオで働いていたからだ。 人気投票の結果発表から数日経った頃、父は仕事仲間を連れて家に帰ってきた。...
いま最も人気のあるアニメといえば『ヴァリアブルオリジナル』、通称『ヴァリオリ』だろう。 異世界で生まれ変わった主人公が仲間たちと共に冒険をしつつ暴虐共をぶちのめす、完全...
≪ 前 ヴァリオリ人気投票は、あえて面倒くさい手続きを要求するシステムになっている。 1人につき1回のみで、アカウントとも紐づいているので連続投票は出来ない。 もしもそれを...
≪ 前 しかし、運営のマツウソさんから返ってきたのは、「不正だと思われる投票の動きはなかった」というものだった。 「お願いします。もっと調べてください。明らかに第23話が5位...
≪ 前 「おいおい、まさかそんな……」 「だけど、辻褄は合います」 実のところ、シューゴさんもその可能性はチラついていた。 しかし得意先を疑うなんてことは、できればやりた...
≪ 前 有るかどうかも分からない、あったとして巧妙に隠されている可能性が高い。 二人は数字の羅列を注意深く凝視した。 どこかに異常な数字はないか、矛盾点はないかを探す。 ...