俺がその一件の裏事情を知ることができたのは、父がヴァリオリのアニメスタジオで働いていたからだ。
人気投票の結果発表から数日経った頃、父は仕事仲間を連れて家に帰ってきた。
「あ、シューゴさん、フォンさん。いらっしゃい」
「よお、長男」
父はこのように仕事仲間を家に連れてくることがあり、俺は彼らから業界のよもやま話をよく聞いていた。
俺にとってはアニメの内容そのものより、むしろそういう話のほうが性に合ってたんだろう。
部外者に踏み込んだ話をペラペラと喋るわけにもいかないからな。
それでも隙のない人間なんていないし、なければ作ってやればいいんだ。
「お、あんがと」
俺はすすんで父たちの輪に入り、酌をする。
そしてこういうとき、「お客さん用」という名目で“いい値段の酒”を開けるようにしているんだ。
酔わせて吐かせるだけならストロング系の缶チューハイとかでもいいが、良い酒で喉元を潤したほうが口元も滑らかになりやすいからな。
そうして程よく酔わせたところで、父たちが話してくれるように誘導する。
「今日は集まって酒飲み……ということは仕事が一段落を終えたんですか?」
「ん……ああ、まあな。アニメの制作自体はいつも通りだったんだが、予定外の仕事が増えたからキツかったぜ」
「人気投票のことです?」
「そうです、そうです。特に結果発表が控えていたときに、ハプニングが起きましたからね……」
発表の一週間前、父たちは事前に集計結果を確認していた。
人気投票の企画や運営をしていたのはスポンサー側だったが、監修のために立ち会う必要があったからだ。
「キャラクターの順位は概ね予想通りですね。主人公が1位で、それに仲間たちやライバルキャラが続いて、新シーズンのボスが……て感じ」
「仲間でイセカだけはちょっと下がりますけど、キャラデザ的にウケが悪いのは仕方ないので1桁に入れただけ健闘した方でしょう」
「まあ、ネット投票する奴らはそこそこ年齢いってる奴らが多いだろうしな。イセカは子どもにはもっと人気あるだろうから十分だろう」
「イセカというより、イセカの使う武器が人気あるって言ったほうがよさそうですけどね」
「分かりにくい例えだが、何となく分かる」
とはいえ集計は終わり、結果が決まった段階。
「ん?……なんかコレ、おかしくねえか」
しかし、その中で一人、シューゴさんだけはすぐ“違和感”に気づいた。
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