遊園地のアトラクションといえば、何が真っ先に思い浮かぶだろうか。
餃子につける酢醤油の割合について議論にはなっても、酢醤油をつけること自体には異論が入らない、みたいなもんだ。
そう例えたら、仲間たちからは首を傾げられた。
どうも俺たちの家系は例え話が下手らしい。
「あのジェットコースターとか、どう?」
ミミセンが指差した先は、まだ朝だというのに行列がそこそこある。
「よし、早く並ぼう」
「え、予約券だけ手に入れておいて、その間に他のアトラクション楽しんだほうが良くない?」
ミミセンが出鼻を挫くようなことを言う。
効率的に立ち回りたい気持ちは分かるが、俺たちにとっては野暮でしかない。
「おいおい、ミミセン。そんな賢いやり方をするほど、上等なもんじゃねえって。ここはイアリーランドだぞ?」
そもそも、予約券なんてシステムはイアリーランドにはないのだ。
俺たちは並ぶしかない。
並んでから十数分後、ジェットコースターの看板が見えるところまで辿りついた。
「変な名前」
「『スットコイン』ってとこがスポンサーらしいから、そういう名前がつけられているのかも」
「『スットコイン』?」
列に並んでいる間はヒマなので、普段なら歯牙にもかけない広告も読んだ。
お金を一元的に管理できるよう、お金を何やかんや……と書いてある。
横文字や固有名詞が多すぎて目が滑り、ロクに内容は理解できない。
少なくともジェットコースターとは何の関連性もない企業のようだ、ってのは分かるが。
何でそんな会社がジェットコースターのスポンサーなんかやってるんだろう。
遊園地のアトラクションってスポンサーがよくいるが、いまいち経緯が分からない。
「まあ、スポンサーが何であれ、ジェットコースターなら何でもいいか」
「身長が低い人間には子供が多く、そういった未発達な子供は高いGに耐えられないからだろう」
「ちぇっ、知ってたか」
当然、俺が答えられたのは、さっき同じ話をミミセンがしていたからだ。
それくらいの時間、並んでいたってことだが、それもようやく終わりを迎えようとしていた。
そして、それは待望の瞬間をも意味している。
“終わりの始まり”ってのは、こういうのをいうんだろうか。
「こちらのアトラクションは500円。チケットだと100イアリーですね」
このアトラクションに乗るには現金を1000円にするか、またはチケットの値段が50イアリーになっていないとダメだ。
「ああ……上がったんですね」
上がった?
「このアトラクションが出来た頃は、500円は100イアリーだったんです。チケットの値段が上がって、1000円が100イアリーになったんでしょうね」
何で値段なんか上げたんだ。
アトラクションの設定している値段と辻褄が合わなくなっているじゃんか。
「私、そんなの知ったこっちゃないんだけど。50イアリーで乗せて」
「そんなこと言われても、ウチは500円または100イアリーでやっているんで」
「おかしいじゃない! それだと私は500円損したことになるわ!」
「お気の毒です」
話が通じない、と確信するには十分な態度だ。
「もういい! お金と換えてくる!」
またも衝撃の事実が告げられる。
「お金をイアリーには換えられるけど、その逆は無理っておかしいでしょ」
「ちょっと前に、偽者のイアリーチケットが出回りまして。その対策を検討中なため、一時的に換金をとめているんです」
『対策を検討中』って……だったらイアリーチケットそのものを止めればいいだろ。
「はあ……私、ムカついてるけど、もういい。はい、100イアリーで乗るわ」
タオナケが怒りで超能力を暴発させたらどうしようとヒヤヒヤしていたが、意外にも落ち着いていた。
ここまで並んでおいて、乗らないというほうが損だと考えたのかもしれない。
もしくは、理不尽も一定のラインを超えると、怒りの感情すらどこかに行ってしまうのだろうか。
「じゃあ、俺たちも……」
タオナケの顔色を窺いながら、俺たちは恐る恐る500円を受付に渡した。
兄貴は、お金のことを良く「便利なもの」だと表現する。 「お金そのものは、金属か紙切れだ。でも、それで大体は交換できるように世の中は出来ている。だから、みんな欲しがる。だ...
≪ 前 アトラクションの出来自体はそこそこだったと思う。 だが、イアリーチケットに対する不信感のせいで、存分には楽しめなかった気がする。 それでも気を取り直して楽しもうと...
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≪ 前 俺たちはというと、園内を一通り周って完全に飽きていたので、スタッフルームに忍びこもうとしていた。 兄貴とバッタリ出会ったのは、その直後だった。 「なんだ、お前ら。...