2017-03-02

同棲を解消する

今月で同棲で解消することになった。

彼女出会ってから8年、付き合って5年。

5回目の春を迎えそうな時期に、僕らの関係は大きく変化した。

新卒入社した会社内定式。はたしてそこに彼女はいた。

第一印象は、酒の強い女だということ。そして、顎のラインがとてもきれいだということだった。

100人近くの内定者が集まりひどく飲んでいたこともあり、正直顔をあまり覚えていない。

4月新卒研修を終え、研修で唯一仲良くなった同期に飲み会に誘われた。

その飲み会で、次々と日本酒をあけて目立っていたひとりの女性彼女だった。

前述の同僚以外、研修で数回話したことがある程度の参加者たちしかいない飲み会は居心地も悪く、つい酒を飲みすぎた。

座敷席にこれ幸いと横になっていた僕を覗き込んだのが彼女だった。顎がきれいだ。よく見ればまつげが長い。

この日僕はやっと彼女の顔と名前を覚えた。

彼女とは配属先の部署は違ったものの、同フロアにいたため何度か顔を合わせた。

一度、エレベーターホール鉢合わせした。

高層ビルのお昼時。エレベーターはなかなか来ない。

気まずさをかき消すように例の飲み会ネタに話をしたが、自分の失態を掘り起こしてしまい苦い思いをした。

それでも、彼女は笑っていた。笑顔可愛いと思った。

付かず離れず、顔を合わせれば挨拶雑談をする程度の仲で2年が経つ。

この日もエレベーターホールいつまでも来ないエレベーターを待っていた。

そういえばさ、と、今日の天気を言うように彼女が切り出した。

「私、来月いっぱいで会社辞めるんだよね」

同期のなかでも何人かすでに退職はいたので別段驚きはしなかったが、少しさみしい思いもあった。

「じゃあ今度、送別会代わりに飲みでも行こうか」

そう口からこぼれたのは、ほとんど無意識。なんなら社交辞令に近かった。

それでも彼女は乗り気で、日付はトントン拍子に決まった。

木曜の20時、会社からやや離れた赤ちょうちん系の居酒屋

僕と彼女は向かい合って座っていた。

ビールハイボール日本酒と矢継ぎ早に空ける彼女の飲みっぷりは、清々しかった。

会社を離れて初めて二人で飲む。他愛もない話から恋愛まで、話は尽きない。

中盤からは手酌をさせてしまっていたが、徳利を傾けおちょこにお酒を注ぐ彼女所作が美しいと思った。

もっと見ていたい。

彼女仕事を辞めたあとも何度か飲みに出かけ、僕らが付き合いだしたのはごく自然な流れだった。

付き合って1年くらいが経過したころ、家賃更新タイミングとなった。

それまで1時間かけて通勤していた僕は、会社に近い物件を探した。

しかし、都心に近い部屋は高い。相変わらず赤ちょうちん系居酒屋で飲んでいた時、彼女東京家賃が高いとぼやいた。

彼女は事も無げに同棲提案した。僕はその決断力に感動し、すぐさま共に住むことを決めた。

彼女のご両親に同棲挨拶をしたときは緊張した。父親が好きだという日本酒の一升瓶を手土産に持っていったところ、すぐに了承をもらえた。彼女と父と母と僕。みんなで飲んだ。彼女の両親はもちろん酒豪で、日本酒は一本では足りなかった。

同棲幸せだった。家に帰れば彼女がいる。

毎日彼女が作ったおつまみ晩酌をした。ときどき、デパ地下で美味しそうなおつまみを見つけたら買って行った。美味しいと目を細める彼女の姿は愛おしかった。我ながら陳腐だが、この時間永遠に続けばいいとさえ思った。

一昨日、彼女が突然、酒を飲まなくなった。胃が受け付けないらしい。病院へ行くよう薦めて出社した僕のLINEに、彼女からの連絡が届いたのは、その日の昼だった。

妊娠してた」

心当たりがなかったわけではない。じつは一度避妊に失敗していた。

僕は彼女との同棲を解消し、夫婦として歩むことを決めた。

人はでき婚だと怒るかもしれない。叩かれることも承知のうち。

言い出せない臆病な自分が情けなかったが、僕は彼女結婚たかった。

僕は彼女とその子どもと人生を共にし、幸せにしたい。

明日有給をとって彼女の両親の家へ挨拶へ行く。

順番を違えてしまったことは、心から謝罪するつもりだ。

ご両親に会う約束をとりつけて緊張している僕に彼女は微笑む。

「きっと一升瓶を2本持っていったら許してくれるよ」

飲む人がひとり減ったのに勘弁してくれと苦笑した僕の心は、すっと軽くなっていた。

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