私はこの原作である漫画が不朽の名作であると思っていて、それを2時間の間口の広い映画として結実させた片渕監督は素晴らしいし、
映画は大変な傑作であるなと思いながらも、原作ファンとしてやはりどうしても白木リンの物語が割愛されていることが残念に思う。
そして、こちらのブログを読んで、ユリイカを買ってきて読んだ。
ユリイカ「この世界の片隅に」 感想 【片渕監督の込めた「すず」という少女への愛】
http://www.club-typhoon.com/archives/8332896.html
短く綴られた理由にとともに
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「そこをつくらないと話にならないよ」って文句を言う人が出てきて、また続編をつくれるかもしれない(笑)。
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という一文があった。
そうか、そうであれば存分に、めんどくさい原作ファンとして「話にならない!」と言わせてもらおうと思う。
以下、原作と映画のネタバレどころか個人的な妄想まで含まれるので、未読・未見の方は読まないことをお勧めします。
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すずは、絵を描く人である。
基本的にはおおらかで、健やかな人であるけれど、少しぼんやり天然なところがある人として描かれている。
たぶん絵を描く人には同意してもらえると思うけど、絵を描くのが好きな人の一部は、現実と自意識の間に透明のキャンバスというかレイヤーを持っていて、現実をそのレイヤーを通して見ているようなところがある。
それがない人と比べてほんのわずかタイムラグがあったり、レイヤーのおかしな働きのせいで見えている世界が違ったりすることがある。
ただ、それは彼女が現実を直視できないということではない、表には出さないがむしろ人一倍繊細に世界を感じる感受性を備えているのである。そのことは波のうさぎや白木リンとのエピソードなど、随所に現れていると思う。
ほんの少し運命が違えば(具体的には周作の母が足を悪くしなければ)「北條リン」であったかもしれない女性である。
周作はどうやら上官の付き合いで遊郭にあがりリンと出会い、そして良い仲になった。ただ、おそらく身請けのための支度金の問題や、親族の反対にあい、そうこうしているうちに母が足を痛めたために、家に女の働き手がどうしても必要になった。そこで周作は「幼い頃出会ったあの女性であれば」と無茶を言ったのだと思われる。半分以上、探し出せなければそれでよい、という気持ちもあったのではないか。
それがすずに対し後ろめたい北條家の秘密であり、何も知らずそれを受け入れるすずに対する周作の姉、径子の苛立ちの原因でもあっただろう。
径子は、おそらくその性格からしてこうした企みに反対だったのだろうと思う。(映画の径子は本当に良かった)
結局のところ、原作においてその秘密はバレるのだが、すずは「代用品」であったことをただ心にしまう。
それはのちに明らかになる、すずにも水原に対して秘めた思いがあったことと対となっている。
けっきょくそれは周作とすずの初めての喧嘩、という形でお互いに秘密をかくしながら本音を晒すという場面に行き着く。
それまでのすずはどこかまわりへの遠慮や壁を感じさせるところがあったが、それ以降、すずはリンに(周作がどうやらリンの嫁入りのために準備した)リンドウの茶碗を渡すまでに強くなる。この場面、そしてそのあとの桜の中のすずとリンは本当に美しい。
その後のリンとすずの交流は微笑ましくも緊張を孕んだもので、戦火が激しくなってくる状況と相まって本当に言葉にならない。家と家族をめぐる問答など、これらの場面はやはり2時間の映画に収めるにはあまりに複雑で美しくも悲しく、どうやっても難しかったと思う。
ただここにこそ、この物語の奥深い、それでもこの世界の片隅に生きていかねばならない悲喜こもごもの、この物語の核があったのではないか。
舞台である戦時の状況はより深刻になってゆき、やがて大きな悲劇がおきる。
映画はそこにフォーカスをあてて、話をわかりやすく整理している。それはおそらく興行として正しく、そして映画から原作へというルートを大きく開いているのだろう。それはおそらく、成功している。
ただやはり、原作を読了したあとに、北條リンと水原すずだったかもしれない「もしも」を思いつつ再読した時に感じた、大きな驚きと感動につながっている部分、それが映画にないことが、私はやはり残念でならない。
エンドロールで原作に近しいコマ形式の紹介はあったし、おそらくそれは「ゼイタク」な話なんだろう。
ただ、私はやはり「この世界の片隅に」には白木リンのエピソードが必要で、文字どおりそれがないと「話にならない」と思う。
私はこの作品が大好きで、映画も素晴らしかった。この素晴らしい作品が、この世界にあってくれて良かった。
ただ、やはりこの作品に映画から触れた人は、原作も是非読むべきだと思う。ぜひ、リンさんの強さと美しさに触れて欲しい。
つまりですね、第二回クラウドファンディングまだっすか?