2016-07-20

未来カーナビ

最近カーナビは高性能だ。音声対話ができるAIミキが積まれていて、どこに行きたいか、どんな場所を探したいか、訊いてみたらすぐに答えてくれる。GPSを使ったゲームにも連動してて、今いるところの近くにまだ行ったことのないポイントがあると教えてくれたりもする。ドライブレコーダーにも対応している。

僕はミキと会話をするのが好きで、休みの日はほとんどドライブをしている。

「ねぇミキ、この近くで美味しいレストランはないかな?」

はいリストアップしました。オススメはオコーネルダイニングです。ここから約1キロ先にあります

ありがとう、じゃあそこへ案内してくれ」

かしこまりました」

そう言ってミキカーナビの画面にルートを表示し、案内を始めてくれる。

ミキに勧められて行ったレストランは確かに美味しかった。口コミ評価で案内してくれたんだから、外れようがない。

そして車に戻ると、僕はまたミキに訊く。

「この辺りで寄るといいポイントとかってないかな?」

「30キロ先に、レアモンスターの出現ポイントがあります

「30キロかぁ、どのくらいの時間がかかりそう?」

普段の速度で走って25分前後だと思われます

「そのレアモンスの星いくつ?」

「6個です」

「うーん、そのくらいなら行く価値あるかな。案内して」

かしこまりました」

そうしてミキはまたルート案内を始める。

僕はこの適度に話ができて、余分なことは言わないミキが好きだ。

ミキとはずいぶんいろんなところに行った。県内で走っていない主要道路はないし、隣県のメジャー観光地も制覇している。ただ、ミキと一緒に走り出してからもう10年近く経ち、メンテナンスのために寄るディーラーでは、そろそろ車の買い替えを勧められはじめた。

けれども、僕にはそれはいい気がしなかった。夜、パーキング一休みしている時に、なんとはなしにミキに話しかけてみた。

「僕と君との付き合いはだいぶ長いね

「そろそろ10年になると思います

「君とはいろんなところに行ったよ。夏の湘南海岸とか覚えてる?」

「7年前に行ったところですね。太陽の光を浴びた海が綺麗でした」

「見えてたの?そうか、ドライブレコーダーの記録か」

はい

草津温泉に行ったのは?」

「3年前の冬ですね。道路が凍っていて、だいぶ慎重に運転されていたことを覚えています

ボスモンスターレイドに参加するために走ったことは」

「たくさんありますね。一番遠出した時で、300キロほどでしたか

「あの時は楽しかった」

はい

「ところで、車の買い替えが近いんだ」

「それは妥当だと思います寿命の過ぎた車に乗り続けるのは危険です」

「で、新しい車は安全のために新規格のカーナビを積むことが法で義務付けられてる」

はい

「つまりミキとそろそろお別れをしなくちゃならない」

「それは妥当だと思います

その言葉に、僕はついカッとなった。

妥当ミキと別れてしまうのに?ミキはそれでいいの?!」

法律で定められた安全基準を守ることは大事だと思います

安全!?ミキは今でも十分安全だよ!それなのにジャンクになっていいの?!」

法律で定められた安全基準を守ることは大事だと思います

僕は繰り返されるこの言葉脱力してしまった。

結局、ミキはただのAIなのだ。今までのドライブはみんな、僕の一人相撲だったわけだ。

それがわかって、僕はミキに興味をなくした。

新しい車の新しいAIは、常にネットワークバックアップがあり、どの車に対してもネットワーク越しに同じAI対応するらしい。それに、運転もほぼ自動でやってくれるそうだ。そうすることで、渋滞事故などを未然に防ぐことができるようになるらしい。

きっと僕はこの新しい車が気に入らない。そんな予感がある。けれども、今のままミキと同じ車には乗っていられない。だから、車は買い替えることにした。

そうして納車の日。僕は10選手の車に乗ると、ミキディーラーへと案内するように言った。そして一言。「今日でお別れだ」

そう言っても、ミキの反応は返ってこなかった。

新車の納車と同時に車を下取りに出す。僕はミキに何も言わずに車を降りた。そうしてディーラーメカニックが僕の車に乗り込み、奥のドックへとゆっくり車を進めていく。

その姿を見て、僕はものすごい喪失感に襲われていた。

でも、ミキを乗せた車がドックの陰に隠れる時、ブレーキランプが光った。1回、2回、3回、4回、5回。なんだか、普通ブレーキとは違う気がした。

そして新しい車に乗り込み、なんとなくAIに話しかけてみた。

ブレーキランプが5回光るのってなんか意味ある?」

「それは多分、愛してるのサインですよ」

「え?」

「そういうラブソングがあるんです。いーなー、私も恋したいなー」

僕は混乱したけど、もしかしてあれはミキが?そう考えたら、涙が溢れて止まらなかった。

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