2024-08-17

いつもテーブルペプシの缶が並んでる。

150ml増量みたいな謳い文句がずっと書いてあったやつ。いつまで言ってんだよと思っていたけど、最近デザイン変更とともにとうとうそ文言は消え失せた。

最初ペプシ飲みながら映画でも観て夜更かした時は特別時間だったけれど、それもすっかりただの不健康日常になってしまった。

静かな夜道に自分一人の足音を響かせながらコンビニお菓子買いに行って、帰りに自販機しか売ってないペプシを買う時間は嫌いじゃない。

それも深い夜にやれたら良いんだけど。ジョギングジジイや早朝出勤の会社員が現れ始める頃合いだと漠然とした焦りがある。こんな事してて良いんだろうかって気持ちの方がデカい。

空き缶は占領面積に我慢ならなくなるまで増え続ける。限度を迎えると、近くに転がってるレジ袋に詰め込んで足元に置いておく。

こんな光景も酒の空き缶だったりすれば、退廃的な悲哀の雰囲気も少しは出たかな。

おれは人生を常にシラフで生きているけれど、酒に逃げられたら多少は楽だったんだろうか。人並みに他人との交流を持って、一杯目の生をそれとなく強要されたりして、付き合い程度にでも飲めるようになってたらどうだろう。まあいいや。

ペプシの缶が増え続け、二週に一度の回収日にはなくなる。おれの生活ってこの繰り返し。

賽の河原ペプシの机。

ある朝目覚めたらタイムリープしていたとしても、おれは時間が巻き戻った事にすら気が付かないかもしれない。

昨日と同じように過ごす中で、しかしたった一つ僅かな違和感を覚える。

机に並んでいたはずの缶が無い。

自分の思い違いか

両親が勝手に来て勝手に片付けたのか。

この若さ認知症を患ってしまったのか。

吉良吉影のように几帳面泥棒が入ったのか。

冷静に事態分析する中で、妥当に思える可能性がどんどん潰れていく。最後に残された、最も信じがたい状況を認めざるを得ない。

自分意識だけを除いて、世界時間が一週間ほど巻き戻されている。

金だ。

BTTF2よろしく、この珍妙な状況の利用法が真っ先に思い浮かぶ

金さえあればこの浮かばれない気鬱な日々も少しはマシになるだろう。

株価にどんな動向があった?

どの馬が勝った?

ナンバーズ当選番号は?

ここ最近で何か重大な発表は無かったか

必死に頭を捻る。何も思い浮かばない。この一週間自分は何をしていた?

後悔する事しか出来ないまま、幻の一週間は無為に過ぎ去る。

何も変わらない。缶の数が減っただけ。

不意に訪れた絶好の機会を失い、先週の過ごし方への後悔は人生のものへの後悔へと変わる。

心の奥底から湧き出る欲望を叶えるための努力を嫌い、恐れた。手軽に買える欲望で気を紛らわす。

逃げん込んだ先の非日常すらもことごとく日常になってしまう。そうして怠惰にかまける生き方にどこか酔う事でやり過ごしていたんだろ。そう自分を責め立てる。

この奇妙な出来事が過ぎ去って、しばらくは新聞に目を光らせるかもしれない。ニュース真剣に耳を傾けるかもしれない。

でも時間が巻き戻る事は二度と無かった。

タイムリープがもたらした生活習慣は次第にフェードアウトしていく。

続けていれば超自然的な奇跡を待たずとも、大逆転ではなくとも、少しは人生が変わっていたかもしれない。

何も変えられなかったけれど、それでも得られた唯一の気付きは泥のような怠惰の中で崩れ去る。

それは結局生き方への真摯反省ではなく、奇跡の再来への浅はかな期待でしかなかったんだろう。

多分そういう奴だねおれは。

ペプシ買いに行くか。

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