2023-02-05

偏食家だった

子供の頃は結構な偏食家であった。

親はあの手この手で食べさせようとするが、今思い返せば悪手ばかりだった。

父親体罰だ。

食わないとビンタする、またはその仕草をして脅す。

ビンタの痛みと恐怖の方が口腔内に広がる腐敗物に等しい味覚臭覚に勝る。

しかし、最悪手なのは言うまでもないだろう。

お蔭で今もセロリは食べられない。

臭いと味が嫌いなのもあるがビンタされた時の不快感をあの青臭さを嗅ぐたびに思い出すからだ。

更に父親食事すると叩かれるかもしれないという恐怖や不安から他人に笑われるぐらいの早飯の悪癖までついてしまった。

母親が試みた古典的手法は細かく刻んで好物のカレーハンバーグに入れるというものだ。

子供の味覚を甘く見過ぎだ。

余談だが、太平洋戦争時に殺処分命令を下されたかわいそうな象のジョン、トンキー、ワンリーは毒入りジャガイモに手をつけず飼育員達はその賢さに驚かれた。

果たして巨獣達は毒殺を人間企図したと認識しての抵抗ではない。

単純に臭いが変わるのだ。

なぜ相殺できると思うのか。

賤しい人間共が実に短絡的で愚かだったのだ。

話を戻すが、ハンバーグに明らかに嫌いなピーマンのエグみが充満して食えたものではない。

よくも好物を美味く食べるという喜びを奪い、穢したな!

湧き上がる憤りと悲しみは至極当然の感情であり、抗議は正当なものである

母親は自らの浅薄な企みを恥じ、謝罪とともに不純物のないハンバーグを作り直して赦しを請うべきだ。

しかし、賢明なる諸兄姉は既にお察しであろう。

結果は

文句があるなら食べるな!」

その理不尽罵声をもって夕食は奪われてしまった。

結局のところ偏食をなくす最も効果的な方法飢餓であった。

大学進学時に親元を離れたが、仕送りもなく困窮した学生生活を送っていた。

毎日カップ麺を啜っていた。

いい加減飽きてきた。というより明らかに体が拒絶反応を起こしている。ウンザリだ!と。

しかし相変わらず偏食が多くこれくらいしか食べられないのだ。

一応カロリーは保っていたが飢えていた。

そう、飢餓であったのだ。

ある日学食卵かけご飯を食べる学生を見た。

生卵も大嫌いだった自分だが、その学生が食べる卵かけご飯がとても美味そうに見えたのだ。

値段もカップ麺と変わらなかった事もあって、翌日勇気をだして頼んでみた。

ご飯の真ん中に玉子を乗せる穴を箸でほじくり、玉子の殻を割ってのせる。

たっぷり醤油をかけてひたすらかき混ぜる。

昨日まではただ気持ち悪いネットリとした生卵が今や米の一粒一粒に纏う金色の衣だ。

若干の逡巡の後に貪り食う。

なんて美味いんだ!

その経験人生を変えた。

ナスレンコントマトキュウリレバー

今も進んでは食べようとは思わないもの、やはりどうしても苦手なものは残れど、あれよあれよと偏食を克服できた。

体が大人になって味覚が変化したという要素も多分にあるとは思う。

ところで、かなり後の事であるが、久しぶりに母の料理を食べて衝撃の事実を知った。

母は料理がとても下手なのだ

更に貧乏症で食材は安さ一択しか買ってこない。

どうしてそんな不味いレタス選択して、さらにその一番不味い部位をドレッシングも無しに生で食べさせようとするのか。

老母に気を遣ってボソボソレタスを齧りながら、これは仕方ないわと幼い自分記憶を慰めるのだった。

  • 食べたくないものを食べるくらいなら断食の方がマシ。死にはしない anond:20230205090827

  • 親と 下した or 和解した どっちになったん?

    • 別にそれで親子断絶したとかではない。 親子って皆が皆ネットで見られるみたいに愛か憎しみだけに全振りしているわけじゃないのよ。 日本とアメリカみたいに許せねー過去があっても...

      • >愛か憎しみだけに全振りしているわけじゃない この感覚すごくよくわかるけど、 こういう感情を持てる関係は恵まれてる方なんだって自覚はあっていい

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