某繁華街のカフェで席を探していると、二十代と三十代くらいの男性二人組の隣の席が空いていたのでそこに腰を下ろした。
こういうところではよくマルチの勧誘に遭遇することができる。二人をひと目見た時点で、二十代の男性(Aとする)が何かを三十代の男性(Bとする)に教えていることがわかった。
これは絶対にきな臭い話だぞ。野生の勘が働いて、いつもなら音楽を聞いているところだが、二人の話に耳を傾けてみた。だんだんと内容が聞こえてくる。最初は恋愛のマインドみたいな話なのかな、と思った。なぜならAは雰囲気イケメンで、Bは格好こそどうにかしようとしている感はあるが、だからこそ、その「どうにかしようとしている感」が出てしまっていて惜しい雰囲気だったからだ。ただ、この言葉が出てきた時点で違う、とわかった。
「個室搬送」つまり部屋なりホテルなり満喫なりなんなりに女性を連れ込む、ということだ。すげーな。荷物かよ。あまり耳馴染みのない単語に惹かれて実況ツイートし始めてしまった。
曰く、個室搬送するためには迷いを挟ませないためにもルートを必ず決めるべきとのこと。行く店、入るホテル、そこに向かう道。一瞬どこにしようか、と考えただけで、女性が我にかえり、成功率が下がる、とのこと。
その後は物理的な距離と気持ちの距離の詰め方の話をしていた。以下に簡単に要点とその例を順不同で箇条書する。
・嫌悪感を抱かれないためにボディタッチのためのボディタッチをしない。
→身長の低い子には「ちっちゃいんだね、顎載せられそう」などと言って実際に載せ、自然に近づく。
・主導権を握る。女性の意見は聞かず、大枠の主張を通して、細かい二択のみ女性に選ばせて自分の意志が通っている風に見せかける。
→ホテルに行く、というところは女性が仮に「居酒屋に行きたい」と言っても譲らず、その道中のコンビニで「どっちの飲み物がいい?」と言って選ばせ、自分が選択した、という意識を持たせる。
・強引に主張を通すのではなく、妹扱い、お姫様扱いをして上下関係を作る。上記のような主張を通りやすくする。
→足元に注意するように、など気遣う(振りをして下に扱う)
恋愛︰失敗談で近づく。女性が元彼を責めたら、それを受けつつ少しだけ元彼を上げる。そうすると女性が更に元彼の悪口を言うので、そこで女性を肯定する。一旦女性には元彼を自分でこき下ろしてもらうと効果的。
性の会話︰どぎつい経験を話す。相手からもそう言った引き出せると、ガードを弱められる。
・上記の三段話法は身構えさせないためになるべく区切りなくつなげる。
・話題は3-4つ投げれば1個は共通項にできる。薄く知ってるだけで言葉尻で会話を合わせることは可能。
・決めつけることで相手に「自分の理解者かもしれない」と思わせることが大事。そのために、見た目などから女性の系統を理解して、その層に人気があること、フックにできそうなことの知識を持つ。
聞けば聞くほど、どこかで聞いたスピリチュアルの洗脳の入り口か??という気持ちになった。バーナム効果の話もしていたし、総じて割とありふれた話であった。
要は「運命は作れる!」ということだ。以前中途半端な知り合いに言われた「お前は強がっているだけ。俺はわかってるよ」がどこから生まれてきたのかを見た気がする。やめてくれ。
インスタントに寝られる女性を探しているから、インスタントな理解(っぽい何か)で十分なのだろう。あの相手を小馬鹿にした話法で女性が釣れるとしたら、多分男性側も女性を見下すようになるだろう。それらが行き着く先はミソジニーではないだろうか。なにも進んで地獄に行かなくても、と思う。なにより、そもそもそんなことができなさそうなくらいにBが真面目そうな顔をして話を聞いていたのがなんだか痛かった。この心理学入門にいくら払ったんだろう。
このあと二人は街に消えた。今度は実地で教えるらしい。お兄さん、その道は茨じゃないですかね、多分。そんなことを言えるほど優しくもないので黙っておく。