男は生涯を通じて「性欲」というパッシブスキルを背負う生き物だ。
たったこれだけ、何の変哲も無い毎日を送る間に、一切の脈略無く性欲ゲージが溜まっていくのが男という生き物だ。
自慢じゃないが、私は10代前半の頃に1日8回オナニー生活を送っていた時期がある。
8回もオナニーすると射精はもはや機能していない。むしろ勃起すら怪しい。
生物学的にこの行為には1ミリも意味が無い。だが新たな機能の獲得を感知した私の脳がバックグラウンドで命ずるのだ。なんとなくその快楽の向こうに私の生物学的ゴールがあるよと。
私はそれに抗えない。まこと恐ろしい話である。今やったら死ぬ。
動物の例を出すまでもなく、自分が生まれてきた機序とか同族を増やす意味とかそういう後付けの一切合切を踏まえずに最初から備わっているもの。それが性欲だ。
意味など知らぬ。でも「ある」のだ。
ちなみに私はオナニーの方法について外部から一切の教材を得ていない。ある時ふと気がついた。
とはいえ、幸か不幸か人類は他の動物よりほんの少しばかり余計に理性を得た。
そして、そういう性欲を野放しにすることはどうもよろしくないという合意に至った。
ゆえに男は「性欲」というパッシブスキルを制御するため、さまざまな追加効果を学習するようになる。
その最も基本的なものが「合意無しに相手を襲わない」というものだ。(当然ですね)
予防線として言っておくが、私は決して「だから男は性欲を我慢して頑張ってるんだ」とか、「女を襲わない男は偉い」ということが言いたいのではない。
しかし悲しいかな、パッシブスキルはプレイヤー以外の目に見えない。
自分のことならまだしも、周りの男がどういう性欲のスキルツリーを育てているか、またその中で追加効果を正常に学習できているか、単純に「わからない」。
女性もそうなのかもしれないが、これは男性間であってもよほど親しくないと開示されない情報で、「男が女を愛する」という単純な概念を共有して暮らしているわけではない。
男性同士の姓に関する際どい会話のやり取りからそうではないと思われているかもしれないが、あれは発話者に調子を合わせているだけであって自身の本来の性欲や性癖とは必ずしも一致しない。
白状すれば、実は自分の性欲が世間一般に照らして正常なのかどうかもよく分かっていないのが実情だ。
先に述べた基礎的な部分での学習ができていないのは論外としても、性欲スキルツリーを細かく見ていくと、公序良俗といった社会合意の中で「一般的」とされているものから逸脱した性欲を抱えている個体がいる。
しかし恐らくはその個体でさえ、法律など外部決裁を経ない限り、自分が抱える性欲の良し悪しを本心から信じているわけではないだろう。
ゆえに男が現代社会で男性と女性双方の尊厳を守りつつ暮らす上での最良の方法が、「性欲は内心の領域に留めておきこれを侵さず、他者に危害を加えないなどの基礎事項を守る」という処世術なのである。
しかし感覚値として、この男性が取りがちな「行動しないことで何かを守る」という行動様式はどうも女性に理解されにくいようだ。
男は女性を大事にしたくないわけではない。ただ双方に配慮した今以上の方法もまだ見つからない。
ラブドールの一件で思うところがあったので描いてみた。