2019-12-08

[] #81-4「AIムール」

≪ 前

そうして、俺たちは職場体験先を『AIムール』に決めた。

パンフレットを読むのに時間をかけすぎて、他の候補先を選ぶ余裕がなかったからだ。

まあ体験内容も楽そうだし、出来立ての社内を覗けるのは興味深い。

結果として悪くない選択だったとは思う。

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後日、参加する生徒たちは『AIムール』社の受付前に集まった。

人数は俺やタイナイを含めて、およそ10人ほどだ。

「お前らもここを選んだのか」

「そりゃあ、学校近くだしね。気になるよ」

社会学人間のためにあるものだが、そこにAIがどう関わっていくか気になったからな」

その中にはクラスメートのカジマとウサクもいた。

意図してはいないが、よく連れ立つメンバーで固まってしまったようだ。

「それにしても、味気ない見た目だよね。この会社

カジマの言うとおり、建物デザインは非常に飾り気のないものだった。

外装はまだ工事中の箇所があった状態とはいえ、それにつけてもシンプルである

内装はまだ1階しか見れていないが、ここも外装と同じレベルだ。

特に力をいれるだろう1階で“これ”なのだから、他のフロアも同様であることは容易に想像がつく。

前向きに解釈するなら「一貫したデザイン」と評価できなくもないが、これはただ簡素なだけのように見える。

「実は我が社の工事も、主にAIがやっているんです」

「うわっ、びっくりした!」

この前の担当者が、いつの間にか背後にいた。

今回は俺も存在に気づけずビクっとしてしまう。

「“声をかけるなら、僕らがもっと離れていた時に”とおっしゃっていましたが、適切な距離ではありませんでしたか

「いや、距離だとかそういうことじゃなくて……」

以前、タイナイに言われたことを覚えていたらしく、数メートルから大声で話しかけてくる。

極端な対応をしながらも、相変わらず口調は淡白なままだ。

天然というか、意外と茶目っ気のあるタイプなんだろうか。

「皆さん、お集まりのようですね。それではこちらへどうぞ」


担当に促されるまま俺たちは社内を案内される。

その道中で利用できる部屋や施設、諸注意などを義務的説明された。

そんな担当を尻目に、タイナイは俺に耳打ちをしてくる。

「なあマスダ、あの人もAIだったりするのかな?」

それを聞いて、俺は口元を左手で覆い隠す。

タイナイがあまりにも真面目な顔で言うものから、思わず表情筋が緩んでしまったんだ。

まあ、AI中心で働く会社なのだから、そういう邪推をしたくなるのも分からなくはないが。

技術的には可能だろうけれど、まず有り得ない」

「なんでそう言い切れるの?」

「例えば俺の母はサイボーグだが、AIにそれと全く同じボディを与えてみろ。ややこしいだろ」

「ああ、それもそっか……人間機械区別が難しくなる」

社会基本的人間向きに作られている。

そんな中、ヒトとAI境界線曖昧にしてしまうのはリスクが大きい。

それ位のことはラボハテなら分かっているはずで、支社の『AIムール』だって同じはずだ。

「そういえば、マスダの近所に住んでるムカイさんはロボットらしいけど、見た目も明らかに機械的だったね」

「厳密にはロボットじゃなくてアンドロイドな」

「細かいなあ……」

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記事への反応 -
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              • ≪ 前 『AIムール』は社内の事業を機械がほとんど担っている。 だからトラブルが発生した場合、その原因と是非は機械に求められるだろう。 ひとつの機械が起こした問題だとしても...

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