パンフレットを読むのに時間をかけすぎて、他の候補先を選ぶ余裕がなかったからだ。
まあ体験内容も楽そうだし、出来立ての社内を覗けるのは興味深い。
結果として悪くない選択だったとは思う。
後日、参加する生徒たちは『AIムール』社の受付前に集まった。
「お前らもここを選んだのか」
「そりゃあ、学校近くだしね。気になるよ」
「社会学は人間のためにあるものだが、そこにAIがどう関わっていくか気になったからな」
その中にはクラスメートのカジマとウサクもいた。
意図してはいないが、よく連れ立つメンバーで固まってしまったようだ。
「それにしても、味気ない見た目だよね。この会社」
カジマの言うとおり、建物のデザインは非常に飾り気のないものだった。
外装はまだ工事中の箇所があった状態とはいえ、それにつけてもシンプルである。
内装はまだ1階しか見れていないが、ここも外装と同じレベルだ。
特に力をいれるだろう1階で“これ”なのだから、他のフロアも同様であることは容易に想像がつく。
前向きに解釈するなら「一貫したデザイン」と評価できなくもないが、これはただ簡素なだけのように見える。
「うわっ、びっくりした!」
「“声をかけるなら、僕らがもっと離れていた時に”とおっしゃっていましたが、適切な距離ではありませんでしたか」
「いや、距離だとかそういうことじゃなくて……」
以前、タイナイに言われたことを覚えていたらしく、数メートル先から大声で話しかけてくる。
天然というか、意外と茶目っ気のあるタイプなんだろうか。
担当に促されるまま俺たちは社内を案内される。
その道中で利用できる部屋や施設、諸注意などを義務的に説明された。
「なあマスダ、あの人もAIだったりするのかな?」
それを聞いて、俺は口元を左手で覆い隠す。
タイナイがあまりにも真面目な顔で言うものだから、思わず表情筋が緩んでしまったんだ。
まあ、AI中心で働く会社なのだから、そういう邪推をしたくなるのも分からなくはないが。
「なんでそう言い切れるの?」
「例えば俺の母はサイボーグだが、AIにそれと全く同じボディを与えてみろ。ややこしいだろ」
そんな中、ヒトとAIの境界線を曖昧にしてしまうのはリスクが大きい。
それ位のことはラボハテなら分かっているはずで、支社の『AIムール』だって同じはずだ。
「そういえば、マスダの近所に住んでるムカイさんはロボットらしいけど、見た目も明らかに機械的だったね」
「細かいなあ……」
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