2019-12-14

[] #81-10AIムール」

≪ 前

機械のやることは労働じゃないのだから、労基を守る必要もないってことだ。

それは労働力を搾取される社員機械に置き換えているだけともいえたが、この会社は、この社会事実上それが認められている。

人道に機械の通る道はない。

「ぬううう、納得いかんぞ! オレは人間によって生み出されたが、人間のために働きたいわけじゃない!」

ムカイさんにそのつもりがなくても、機械は人々のために作られていることは大前提だ。

そこを否定してしまうと、そもそも作らなければいいって話になってしまう。

さすがに、それをムカイさんに面と向かって言えるほどの胆力は俺にはないが。

「オマエたちは不服じゃないのか!? 人間たちよりも長く、多く働いているにも関わらず、マトモな見返りも敬意もないんだぞ!」

ムカイさんは作業場アンドロイドたちに、そう投げかけた。

しかし、まるで反応がない。

専門的なことは分からないが、多分あのアンドロイドたちはAI最適化されているのだろう。

見返りも敬意も欲しておらず、自分たちのやっていることに疑問を持つ余地がないよう設計されている。

だけど、少し妙だな。

言っていることの内容を理解できない場合でも、最低限「異常なし」って応答はするよう設計されているはずだが。

まさかAIに不調が?

「やはりダメか……ワレが何を言っても、ヤツラはいつもあん調子だ」

と思ったが、どうやら以前から反応していなかったらしい。

だったら考えられるのは、ムカイさんが規格外からだろうか。

対応していないメーカー機械音声には反応しないのかもしれない。

或いは、あえてムカイさんの声にだけ反応しないようプラグラムされているか

「まったく、これだけ無視されるというのに、なぜワレはリーダーに任命されたんだ」

当人もその点については不可解だったらしい。

俺はこの時点で凡その見当はついていたが、言うべきかどうか悩んでいた。

どうしても憶測が混じるし、それを聞いたムカイさんがどういう行動にでるかも不安だ。

それに俺の考えていることは邪推しかなく、何事もなく終わる可能だってある。

このまま黙っているのも一つの選択ではあった。

「マスダ、他にも何かあるのか?」

ムカイさんが詰め寄ってくる。

こちらの躊躇いが態度に出ていたのだろう。

こうなったら、もう言うしかない。

「えーと、そのことなだけど……」

俺は飛行している監視ロボの位置確認する。

巡回ルートを考えると、しばらくはこちらにこないはずだ。

まあ、どこかで会話の音声を拾われているかもしれないし、今さら気にしたって仕方ないか

「多分……それはムカイさんを“名ばかりの重役”にしておきたいからさ」

「ナバカリ……ジュウヤク? どういう意味だ」

「この会社アンドロイドと、ムカイさんとの決定的な違いって何だと思う?」

「んん……AIか?」

「半分正解。厳密に言えば、“この会社管轄していないアンドロイドだってこと」

そんな立ち位置アンドロイドリーダーを任せる目的を考えるなら、導き出される答えはそこまで多くない。

次 ≫
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  • ≪ 前 「あー……」 カジマたちも発言が不用意だったことに気づいたようだ。 さっきまで滑らかだった口は途端に摩擦を失い、みんな不規則にキョロキョロしだす。 「どこを見てる...

    • ≪ 前 「気になったんだが、ムカイさんはどういう経緯でこの部署のリーダーに?」 「タントウを名乗る人間にリーダーを任命された」 イントネーションが独特だが、「タントウ」っ...

      • ≪ 前 リーダーに後ろから近づく。 まさかとは思っていたが、やっぱりだ。 至近距離で見てみると、その大きさがますます分かる。 アメフト選手と相撲レスラーを足して、2で割らな...

        • ≪ 前 「エーゼロワン、異常はない?」 「はい、エーゼロワン、異常ありません」 「はいはい、異常なし……っと」 翌日の仕事に慣れてきたこともあって、あっという間に終わった...

          • ≪ 前 「ここが皆さんの部署です」 部署はクラス毎に分けられ、俺たちは開発課を任された。 「わー、すごい……」 「本当にAI中心で働いているんだな」 そこでは十数体のアンドロ...

            • ≪ 前 そうして、俺たちは職場体験先を『AIムール』に決めた。 パンフレットを読むのに時間をかけすぎて、他の候補先を選ぶ余裕がなかったからだ。 まあ体験内容も楽そうだし、出...

              • ≪ 前 ブースに近づくと、担当らしき人物が俺たちに声をかけてきた。 「『AIムール』に興味がおありですか?」 「うわっ、びっくりした!」 「俺は、お前の“びっくりした”って声...

                • ≪ 前 しかし、ひょんなことから、俺はあの建物に関心を持つ必要に迫られる。 数日後、職場体験のカリキュラムがあったんだ。 体験できる職場は複数存在し、生徒はそこから自由に...

                  • 現代人の車離れが語られて久しいけれど、未だ俺はそれを首肯できるだけの機会に恵まれていない。 個人的な実感と現実の間に、大した距離があるようには思えなかったからだ。 ちょ...

  • ≪ 前 『AIムール』は社内の事業を機械がほとんど担っている。 だからトラブルが発生した場合、その原因と是非は機械に求められるだろう。 ひとつの機械が起こした問題だとしても...

    • ≪ 前 「担当者と話したいなら、内線で呼ぼう」 ムカイさんを宥めながら、俺はクラスメートのタイナイに目配せをした。 「あ……ああ、分かった。呼んでくるよ」 しかし、タイナ...

      • ≪ 前 「担当者さん。俺たちは難しいことを何一つ言っていない。機械を、ムカイさんを使い捨てるような真似はやめてくださいっていう、すごくシンプルな話なんです」 「別に使い捨...

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