「担当者と話したいなら、内線で呼ぼう」
ムカイさんを宥めながら、俺はクラスメートのタイナイに目配せをした。
「あ……ああ、分かった。呼んでくるよ」
しかし、タイナイが内線に向かおうとしたとき、近くにいたアンドロイドのエーゼロワンが作業の手を止めた。
どこかに移動しようとしているが、あっちは充電所じゃない。
「ブザーを鳴らすつもりだ! 警備ロボを呼ばれるぞ」
どうやら俺たちとムカイさんの動きを、異常事態だと感知したらしい。
出来る限り穏当にいこうって時に、そんなことされたら話がこじれる。
「ウサク止めるんだ! タカ派の力を見せてやれ!」
「タカ派じゃないし、貴様はタカ派をなんだと思って……まあ、その話は後にしよう」
ウサクは渋々といった具合に、エーゼロワンの前に立ち塞がった。
いつものように質問をすると、エーゼロワンは動きを止めて応答した。
それが終えると再び動き出そうとするが、同じ質問をする度に律儀に動きを止める。
これで時間稼ぎができると思った束の間、今度は監視ロボットがこっちに向かってきている。
「わー! 見て見て~!」
それにいち早く気づいたカジマは、監視ロボットの前で不自然におどけて見せた。
ロボットはそれを避けようと順路を変えるが、カジマは反復横とびでひたすら妨害し続ける。
「オマエラ……そこまでして戦うのが嫌なのか」
その様子にムカイさんは少し呆れているようだったが、おかげで冷静さを取り戻したようだ。
「戦うことに意味があるのは否定しないさ。でもムカイさんだって、戦うこと自体は好きじゃないだろ?」
そうじゃなかったら、“戦わない理由”を自らプログラムしたりしないだろう。
「それでも戦う必要があるのなら、暴れるんじゃなくてスマートに行こうぜ」
「ふっ、スマートか……オマエたちの慌てぶりを見ていると、確かに説得力があるな」
うん?
「『とりあえず来てくれ』とだけ言われましたが、何かありましたか」
俺たちはムカイさんと担当者の間に入ると、その旨を伝えた。
「つまり、こちらのムカイさんが、ご自身への待遇が不当だと……おっしゃるので?」
これまで淡々とした調子を崩さなかった担当者が、ここにきて初めて眉をひそめた。
機械が労働に異議を申し立てるなんて前代未聞だから、困惑するのも無理はないが。
「『256』に、ちゃんと支払っているのですが……」
「それってムカイさんに対する報酬じゃないっすよ」
「それって一定額までなら無料の食堂と、健康診断がついているようなものだろ」
「つまりヒトでいうなら福利厚生の範疇だ。仮に報酬だとしても、対価に見合っているとは思えないが」
「規格外の機体ですから、メンテナンスするとコンプライアンス違反になりますので」
「コンプライアンスを遵守するなら、それこそムカイさんに対する扱いが不当だろって話をしているんだ」
「いや、しかし彼は……」
俺たちが詰問するたび、担当者の顔がどんどん険しくなっていく。
困惑と嫌悪が入り混じったような、何ともいえない表情をしていた。
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≪ 前 機械のやることは労働じゃないのだから、労基を守る必要もないってことだ。 それは労働力を搾取される社員を機械に置き換えているだけともいえたが、この会社は、この社会は...
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