2019-12-16

[] #81-12AIムール」

≪ 前

担当者と話したいなら、内線で呼ぼう」

ムカイさんを宥めながら、俺はクラスメートタイナイに目配せをした。

「あ……ああ、分かった。呼んでくるよ」

しかし、タイナイが内線に向かおうとしたとき、近くにいたアンドロイドのエーゼロワン作業の手を止めた。

どこかに移動しようとしているが、あっちは充電所じゃない。

今まで見たことない挙動だ。

「ブザーを鳴らすつもりだ! 警備ロボを呼ばれるぞ」

どうやら俺たちとムカイさんの動きを、異常事態だと感知したらしい。

出来る限り穏当にいこうって時に、そんなことされたら話がこじれる。

「ウサク止めるんだ! タカ派の力を見せてやれ!」

タカ派じゃないし、貴様タカ派をなんだと思って……まあ、その話は後にしよう」

ウサクは渋々といった具合に、エーゼロワンの前に立ち塞がった。

「エーゼロワン、異常はないか

はい、エーゼロワン、異常ありません」

いつものように質問をすると、エーゼロワンは動きを止めて応答した。

それが終えると再び動き出そうとするが、同じ質問をする度に律儀に動きを止める。

「エーゼロワン、異常はないか

はい、エーゼロワン、異常ありません」

これで時間稼ぎができると思った束の間、今度は監視ロボットがこっちに向かってきている。

「わー! 見て見て~!」

それにいち早く気づいたカジマは、監視ロボットの前で不自然におどけて見せた。

ロボットはそれを避けようと順路を変えるが、カジマは反復横とびでひたすら妨害し続ける。

些か強引だが効果的な方法だ。

「オマエラ……そこまでして戦うのが嫌なのか」

その様子にムカイさんは少し呆れているようだったが、おかげで冷静さを取り戻したようだ。

「戦うことに意味があるのは否定しないさ。でもムカイさんだって、戦うこと自体は好きじゃないだろ?」

そうじゃなかったら、“戦わない理由”を自らプログラムしたりしないだろう。

「それでも戦う必要があるのなら、暴れるんじゃなくてスマートに行こうぜ」

「ふっ、スマートか……オマエたちの慌てぶりを見ていると、確かに説得力があるな」

うん?

もしかして今の皮肉で言ったのか。


しばらくすると、あの担当者部署にやってきた。

「『とりあえず来てくれ』とだけ言われましたが、何かありましたか

俺たちはムカイさんと担当者の間に入ると、その旨を伝えた。

「つまりこちらのムカイさんが、ご自身への待遇が不当だと……おっしゃるので?」

これまで淡々とした調子を崩さなかった担当者が、ここにきて初めて眉をひそめた。

機械労働に異議を申し立てるなんて前代未聞だから困惑するのも無理はないが。

だが、だからといって俺たちの理屈が通らないわけじゃない。

「『256』に、ちゃんと支払っているのですが……」

「それってムカイさんに対する報酬じゃないっすよ」

「充電はしています。あと、メンテナンスも」

「それって一定額までなら無料食堂と、健康診断がついているようなものだろ」

「つまりヒトでいうなら福利厚生範疇だ。仮に報酬だとしても、対価に見合っているとは思えないが」

そもそも、ワレは充電しかしてもらってないぞ」

規格外の機体ですからメンテナンスするとコンプライアンス違反になりますので」

コンプライアンスを遵守するなら、それこそムカイさんに対する扱いが不当だろって話をしているんだ」

「ヒト相手にやったら完全にクロ。労基違反だ」

「いや、しかし彼は……」

俺たちが詰問するたび、担当者の顔がどんどん険しくなっていく。

困惑嫌悪が入り混じったような、何ともいえない表情をしていた。

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記事への反応 -
  • ≪ 前 『AIムール』は社内の事業を機械がほとんど担っている。 だからトラブルが発生した場合、その原因と是非は機械に求められるだろう。 ひとつの機械が起こした問題だとしても...

    • ≪ 前 機械のやることは労働じゃないのだから、労基を守る必要もないってことだ。 それは労働力を搾取される社員を機械に置き換えているだけともいえたが、この会社は、この社会は...

      • ≪ 前 「あー……」 カジマたちも発言が不用意だったことに気づいたようだ。 さっきまで滑らかだった口は途端に摩擦を失い、みんな不規則にキョロキョロしだす。 「どこを見てる...

        • ≪ 前 「気になったんだが、ムカイさんはどういう経緯でこの部署のリーダーに?」 「タントウを名乗る人間にリーダーを任命された」 イントネーションが独特だが、「タントウ」っ...

          • ≪ 前 リーダーに後ろから近づく。 まさかとは思っていたが、やっぱりだ。 至近距離で見てみると、その大きさがますます分かる。 アメフト選手と相撲レスラーを足して、2で割らな...

            • ≪ 前 「エーゼロワン、異常はない?」 「はい、エーゼロワン、異常ありません」 「はいはい、異常なし……っと」 翌日の仕事に慣れてきたこともあって、あっという間に終わった...

              • ≪ 前 「ここが皆さんの部署です」 部署はクラス毎に分けられ、俺たちは開発課を任された。 「わー、すごい……」 「本当にAI中心で働いているんだな」 そこでは十数体のアンドロ...

                • ≪ 前 そうして、俺たちは職場体験先を『AIムール』に決めた。 パンフレットを読むのに時間をかけすぎて、他の候補先を選ぶ余裕がなかったからだ。 まあ体験内容も楽そうだし、出...

                  • ≪ 前 ブースに近づくと、担当らしき人物が俺たちに声をかけてきた。 「『AIムール』に興味がおありですか?」 「うわっ、びっくりした!」 「俺は、お前の“びっくりした”って声...

                    • ≪ 前 しかし、ひょんなことから、俺はあの建物に関心を持つ必要に迫られる。 数日後、職場体験のカリキュラムがあったんだ。 体験できる職場は複数存在し、生徒はそこから自由に...

  • ≪ 前 「担当者さん。俺たちは難しいことを何一つ言っていない。機械を、ムカイさんを使い捨てるような真似はやめてくださいっていう、すごくシンプルな話なんです」 「別に使い捨...

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