だからトラブルが発生した場合、その原因と是非は機械に求められるだろう。
ひとつの機械が起こした問題だとしても、人々は同社の製品全てに不信感を抱く。
それを解消するために全ての機械を作り直す、なんてのは大きな損失だ。
再発防止の強化にしたって新たなコストが発生するし、作業の効率性も落とす。
リスクヘッジのために、そこまでやるのは割に合わない。
この会社を作るだけでも莫大な金がかかっているだろうし、できれば余計な出費は避けたいはず。
「そのためにワレを“リーダー”に……“名ばかりの重役”にしたというわけか」
規格外の派遣アンドロイドであるムカイさんは、『AIムール』にとっては都合がいい存在だろう。
派遣させた『256』にとっても、今は亡きメーカーの中古品を管理しているだけ。
あわよくば処分したい位に考えているのかもしれない。
「うへえ、えげつな~」
酷いやり口に、しばらく沈黙していたクラスメートたちも思わず声を洩らした。
だが、それを最も酷いと感じているのは、当事者のムカイさんに他ならない。
「ヤツラめ、どこまでコケにすれば気が済むのだ!」
ムカイさんは声を荒げ、勢い良く立ち上がった。
次に繋がる行動も、誰の目から見ても明らかだった。
「タントウシャはどこだ! ワレをリーダーに任命した、あのタントウシャだ!」
今にも暴れだしそうな勢いだった。
ムカイさんは“戦わない理由”をプログラムすることで、戦闘行動を自主的に抑えている。
言い換えると、“戦う理由”があれば歯止めがきかないってことだ。
「ど、どうしよう、マスダ」
このままムカイさんを行かせるのはマズい。
いくら武装解除しているとはいえ、本来のスペックは戦闘用のそれだ。
「マスダの母さんを呼ぼう! 昔はムカイさんとよく喧嘩してたって聞いたぞ」
「それだ! 彼女なら止められる」
クラスメートたちはよほど混乱しているらしく、とんでもないことを提案してくる。
うちの母を荒事に介入させようとするなよ。
「バカなことを言うな。そんなことしたら、なおさら収拾がつかなくなるだろ」
そりゃあ、母ならムカイさんを止められるだろうが、それはあくまで“物理的な仲裁”だ。
それでは大事になるし、みんなも無事じゃあ済まない。
血もオイルも流させないことが肝要だ。
「ムカイさん、ちょっと待ってくれ」
俺は回り込んで、ムカイさんの進行を遮った。
「違う、これはお願いだ。ひとまず座ってくれ」
母とは和解したし、弟はムカイさんのことを気に入っている。
≪ 前 機械のやることは労働じゃないのだから、労基を守る必要もないってことだ。 それは労働力を搾取される社員を機械に置き換えているだけともいえたが、この会社は、この社会は...
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≪ 前 「気になったんだが、ムカイさんはどういう経緯でこの部署のリーダーに?」 「タントウを名乗る人間にリーダーを任命された」 イントネーションが独特だが、「タントウ」っ...
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≪ 前 そうして、俺たちは職場体験先を『AIムール』に決めた。 パンフレットを読むのに時間をかけすぎて、他の候補先を選ぶ余裕がなかったからだ。 まあ体験内容も楽そうだし、出...
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≪ 前 「担当者さん。俺たちは難しいことを何一つ言っていない。機械を、ムカイさんを使い捨てるような真似はやめてくださいっていう、すごくシンプルな話なんです」 「別に使い捨...