2019-12-15

[] #81-11AIムール」

≪ 前

AIムール』は社内の事業機械ほとんど担っている。

からトラブルが発生した場合、その原因と是非は機械に求められるだろう。

ひとつ機械が起こした問題だとしても、人々は同社の製品全てに不信感を抱く。

それを解消するために全ての機械を作り直す、なんてのは大きな損失だ。

再発防止の強化にしたって新たなコストが発生するし、作業効率性も落とす。

リスクヘッジのために、そこまでやるのは割に合わない。

ましてや、『AIムール』は出来立ての企業だ。

この会社を作るだけでも莫大な金がかかっているだろうし、できれば余計な出費は避けたいはず。

そのためには“最小限の犠牲”が必要だ。

「つまりトカゲの尻尾切り”さ」

いや、この場合は“スケープゴート”といったほうが正しいか

からさまに尻尾の形をしていては逃げられない

スペアの頭”が必要だ。

「そのためにワレを“リーダー”に……“名ばかりの重役”にしたというわけか」

規格外派遣アンドロイドであるムカイさんは、『AIムール』にとっては都合がいい存在だろう。

派遣させた『256』にとっても、今は亡きメーカー中古品管理しているだけ。

あわよくば処分したい位に考えているのかもしれない。


「うへえ、えげつな~」

酷いやり口に、しばらく沈黙していたクラスメートたちも思わず声を洩らした。

だが、それを最も酷いと感じているのは、当事者のムカイさんに他ならない。

「ヤツラめ、どこまでコケにすれば気が済むのだ!」

ムカイさんは声を荒げ、勢い良く立ち上がった。

表情こそ変わらないが、そこから読み取れるものは難しくない。

次に繋がる行動も、誰の目から見ても明らかだった。

タントウシャはどこだ! ワレをリーダーに任命した、あのタントウシャだ!」

そう言葉を繰り返しながら、ギシギシと音を立てて歩き出す。

今にも暴れだしそうな勢いだった。

ムカイさんは“戦わない理由”をプログラムすることで、戦闘行動を自主的に抑えている。

言い換えると、“戦う理由”があれば歯止めがきかないってことだ。

「ど、どうしよう、マスダ」

このままムカイさんを行かせるのはマズい。

いくら武装解除しているとはいえ本来スペック戦闘用のそれだ。

その気になれば、この会社なんてひとたまりもないだろう。

「マスダの母さんを呼ぼう! 昔はムカイさんとよく喧嘩してたって聞いたぞ」

「それだ! 彼女なら止められる」

クラスメートたちはよほど混乱しているらしく、とんでもないことを提案してくる。

うちの母を荒事に介入させようとするなよ。

バカなことを言うな。そんなことしたら、なおさら収拾がつかなくなるだろ」

そりゃあ、母ならムカイさんを止められるだろうが、それはあくまで“物理的な仲裁”だ。

それでは大事になるし、みんなも無事じゃあ済まない。

血もオイルも流させないことが肝要だ。

「ムカイさん、ちょっと待ってくれ」

俺は回り込んで、ムカイさんの進行を遮った。

「マスダ! ワレに命令する気か!?

「違う、これはお願いだ。ひとまず座ってくれ」

ムカイさんとは家族ぐるみの近所付き合いだ。

母とは和解したし、弟はムカイさんのことを気に入っている。

こんなことで斜向かい空き家を作りたくはない。

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  • ≪ 前 機械のやることは労働じゃないのだから、労基を守る必要もないってことだ。 それは労働力を搾取される社員を機械に置き換えているだけともいえたが、この会社は、この社会は...

    • ≪ 前 「あー……」 カジマたちも発言が不用意だったことに気づいたようだ。 さっきまで滑らかだった口は途端に摩擦を失い、みんな不規則にキョロキョロしだす。 「どこを見てる...

      • ≪ 前 「気になったんだが、ムカイさんはどういう経緯でこの部署のリーダーに?」 「タントウを名乗る人間にリーダーを任命された」 イントネーションが独特だが、「タントウ」っ...

        • ≪ 前 リーダーに後ろから近づく。 まさかとは思っていたが、やっぱりだ。 至近距離で見てみると、その大きさがますます分かる。 アメフト選手と相撲レスラーを足して、2で割らな...

          • ≪ 前 「エーゼロワン、異常はない?」 「はい、エーゼロワン、異常ありません」 「はいはい、異常なし……っと」 翌日の仕事に慣れてきたこともあって、あっという間に終わった...

            • ≪ 前 「ここが皆さんの部署です」 部署はクラス毎に分けられ、俺たちは開発課を任された。 「わー、すごい……」 「本当にAI中心で働いているんだな」 そこでは十数体のアンドロ...

              • ≪ 前 そうして、俺たちは職場体験先を『AIムール』に決めた。 パンフレットを読むのに時間をかけすぎて、他の候補先を選ぶ余裕がなかったからだ。 まあ体験内容も楽そうだし、出...

                • ≪ 前 ブースに近づくと、担当らしき人物が俺たちに声をかけてきた。 「『AIムール』に興味がおありですか?」 「うわっ、びっくりした!」 「俺は、お前の“びっくりした”って声...

                  • ≪ 前 しかし、ひょんなことから、俺はあの建物に関心を持つ必要に迫られる。 数日後、職場体験のカリキュラムがあったんだ。 体験できる職場は複数存在し、生徒はそこから自由に...

                    • 現代人の車離れが語られて久しいけれど、未だ俺はそれを首肯できるだけの機会に恵まれていない。 個人的な実感と現実の間に、大した距離があるようには思えなかったからだ。 ちょ...

  • ≪ 前 「担当者と話したいなら、内線で呼ぼう」 ムカイさんを宥めながら、俺はクラスメートのタイナイに目配せをした。 「あ……ああ、分かった。呼んでくるよ」 しかし、タイナ...

    • ≪ 前 「担当者さん。俺たちは難しいことを何一つ言っていない。機械を、ムカイさんを使い捨てるような真似はやめてくださいっていう、すごくシンプルな話なんです」 「別に使い捨...

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