「エーゼロワン」
翌日の仕事に慣れてきたこともあって、あっという間に終わった。
慣れが必要なほど難しいってわけでもないけれど、何もしない時間が増えてしまうのが厄介だ。
アンドロイドたちが黙々と作業をするシーンなんて数分見てれば飽きる。
「暇っすねえ~」
「そういう極端な対比は適切ではないな。それに、社員に碌な仕事を与えないのも一種のパワハラだ」
「とはいえ、俺たちは職場体験で来た学生だからな。大した仕事は与えられないんだろう」
まあ、そうは言ってみたものの、何を体験させられているのかは自分でも良く分かっていないのだが。
「せめて暇をつぶせる場所があればいいんすけどね~」
社内はまだ工事中の場所か、『関係者以外は立ち入り禁止』という札ばかりだ。
利用することはもちろん、覗くことすらできない状態だ。
AIの職場だから、人間向きの施設は優先順位が低いってことなのだろうか。
大企業の支社だから、食堂の飯だけは少し期待していたのだが、まさか出前だとは思わなかった。
「普段は何を頼むの?」
「やっぱピザが最強っしょ。もう少し安くなってほしいとは思うけど」
「ああいうデリバリーが高いのは、注文が殺到するのを防ぐためって側面もあるらしいぞ」
「ま、結局は費用対効果が~ところでしょ」
「リーダーのアンドロイドに、何か聞いてみたりしないんすか?」
「ええー……どうかな」
暇つぶしになるかどうか以前に、そもそもやりたくないって反応だ。
「ちょっと怖いんだよね……」
リーダーは、他のアンドロイドたちから十数メートル離れた場所で作業をしている。
遠くから見ても分かるほどに大きなボディで、人間には持てないであろう重さの荷物をいつも運んでいた。
どうにも近よりがたい雰囲気があったんだ。
「他のアンドロイドたちみたいに質問チェックしなくていいみたいだから、無理に関わる必要はないんじゃないか?」
「それが気になるんすよ。なんでリーダーのチェックはしなくていいのか……」
確かに、俺もその点は気になっていた。
リーダーなのだから、むしろ優先的にチェックするべきアンドロイドのはずだ。
運搬作業ばかりで、他のアンドロイドを統率している様子もないのも気になる。
「よし、聞いてこよう」
俺はフォーチュン・クッキーを平らげると、おもむろに席を立った。
「問題ない。占いには『思いがけない出会いが、水の流れを変える』と書かれていた」
「それは、良いとも悪いとも取れる書き方じゃないか?」
もちろん、フォーチュン・クッキーの占いなんて信じちゃいない。
大丈夫だと感じたのは、危険だったら担当もこんな場所を任せないだろうという、常識的判断からきている。
それに漠然とだが、あのリーダーを見たときから、俺の中では「もしかして」って思いが燻っていたんだ。
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