けっこう急に有給とることになったのである。だが、絶叫マシン好きのおっさんに付き合ってくれる人がいない。
悩んだ末、1人で行くことにしたのは、シングルライダーがあるというのを、結構最近知ったからである。
しかし、自分にもデートで「俺は怖いから乗れない」と言えない状況に見舞われるような、ある意味で幸運な時間があったのである。
で、乗ってみれば案外大したことないどころか、案外乗った後爽快だったのである。
考えてみれば、あんなものは、ちゃんと本当の危険がないようにプロが設計して、これから何がおこって、何分で終わるか把握したうえで乗るのである。
そんな危険は危険ではない。人生には、もっと恐ろしいことがいくらでもあることを、人は年を重ねるごとに知るのである。
しかし、そうなったときには、一緒に乗ってくれる人がいなくなっていた。
まあ、そんな理屈はどうでもいい。
車は持っていないので、高速バスで行くことにする。
富士急にはアフタヌーンパスというチケットがあり、午後1時から入ると1900円ほど安い。
まあ、朝早くから出かけて、万一1人で居たたまれない時間が長引いてもつらそうなので、10時過ぎにバスタ新宿をでるバスに乗り、午後から入ることにした。
最初に目指したのはキング・オブ・コースターこと「フジヤマ」である。
シングルライダーは、有料の「搭乗優先券」と同じ入り口から入るらしい。
つまり、60分待ちの、友達同士や恋人同士で仲良くウキウキしながら順番をまっている人たちのすぐわきを通って乗り場に向かうことになる。
「なに、あのおっさん1人? いやだぁ」とひそひそ話でもされたらいやだなあ、と思ったが、そこは毅然と通り過ぎれば大丈夫だった。
だいたい、アンタが世間を気にするほどには、世間はアンタを気にしていない。
内心はともかく、外見上はみんな興味ないのである。
乗り場近くにたどり着くと、おお! 先着のシングルライダー仲間がいるではないか!!
これは心強い。
おひとりさまの何がつらいって、自分1人が「おひとりさま」で耐え忍んでいて、世間のみんなはすべて二人以上で楽しく過ごしているのではないか?という不安がつらいのだ。
自分のような「おひとりさま」な同志が他にもいるのだという事実ほど、心強いことはない。
つまり、三人組や五人組が来たとき、あいた一席に同乗させてもらうのである。
しがたって、延々と複数人グループがくるとなかなか乗れず、「一般列より必ず早く乗れることを保証するものではない」旨の注意書きがある。
いつ席があくのか?という待つ感覚は、列がだんだん前に進むのは違うスリルがある。
突然、「はいどうぞ」と言われるわけだ。
案内されたのは、女子大生? 3人組と同乗する組み合わせになった。
隣になることになったお嬢さんにはお気の毒だが、まあ、これも運とおもっておくれ。
まあ、おっさんなどいないがごとく、ずっと3人できゃっきゃはしゃいでいてくれたのはありがたかったが。
なぜか自分と女子大生?1人が前、後ろにあとの二人が乗ることになったのだが、フジヤマの長いのぼりの間から異様にテンションが高く、ひとたびファーストドロップを落ち始めてから最後まで、ものすごい悲鳴だった。
停車してから、自分の隣にいた子が「ちょっとぉ、あんたら凄い声じゃんよぉ」と振り返っていたので、思わず笑ったら、「ほら、笑ってるじゃんよぉ」と言われてしまい、「いや、いい効果音でしたよ」といったら何となく喜んでくれたので良かった。よし。
一つ目が成功すれば、あとはもうなんの躊躇もなくなり、フジヤマ2回にええじゃないか2回、途中、「富士飛行社」という富士山上空を遊覧飛行するシアター型のアトラクションなどもはさみつつ、乗り倒してきた。
待ち時間は長くても15分程度。
一度など、乗り場についたらすぐ3人組がきて、心の準備もそこそこにええじゃないかに乗せられてしまった。
が、しかし。
富士急のいわゆる「4大コースター」のうち、シングルライダーが適応されているのは「フジヤマ」と「ええじゃないか」だけなのである。
しかしさすがに、みんなワクワクしてまっている列に一人で並ぶのは、心の負担が大きそうで踏み出せない。
というわけで、これからも、折に触れて富士急には出かけそうな気がしている。
ゆっくり家をでて、午後から入るという選択も悪くなかったようだ。
さすがに一日中コースター乗り続けると、体に変調をきたしそうでもあるし。
だから、願わくば、4大コースターすべてにシングルライダーを適用してほしい。
いや、ド・ドドンパと高飛車は一両に乗れる人数が少ないので、そこにシングルライダー適用したくないという富士急側の理屈はわかるのだが。