1
「起きろーー!」
娘の声に促されて1階に降りると、
夫が朝食を用意してくれていた。
目覚まし代わりに
淹れたてのコーヒーをすする。
「そ。ぽっかりスケジュールが空いてね。
ま、いーかって。ジム行くことにした」
途中で逸れて駅へ。
人もまばらな車両に乗り込んで、
ポーチを取り出す。
車内で化粧するという行為を、
昔は全く理解できなかったけれど、
今は、その理由の一つだけは分かるようになった。
カウンターに並んで座り、
先輩の変わらぬ……少し変わったかな?……横顔を見て、
私との出会いも同時。
先輩はそのときも、その後も、
一歩引いた位置にいた。
何事も控えめで真面目で、
2
二年前。
そんなふうに誘っておきながら、
バーを出た後、その汗ばんだ手が、
探るように、私の手に触れたことで
そのとき不意に、先輩の態度と、
私がかねてより持っていたいくつかの疑問とに対し、
その全てに回答を与えてくれる、一つの仮説を思い付いた。
友情を大事にする先輩が夫を裏切ろうとするのは、夫への友情を失ったから。
夫を見限ったのは、夫が見限られることをしたから。
見限られることとは、私が漠然と感じていた、女の影。
話そうとしたのは、その核心的な証拠。
話せなかったのは、決定的なトリガーを引くことへのためらい。
なるほど。
「これは面白いことになりました」
つい口をついた、場違いな私の言葉に、戸惑い、慌てて引っ込めようとする、
その汗ばんだ手を、強く握り返した。
(そういうのって、もっとずっと早い方がよかったと思いますよ、先輩。
でも、奥さまや息子さんのこと、いいんですか?
ま、いいんでしょうし、いいんですけど)
3
その他少々の野菜、
娘はまだ友だちとの買い物を楽しんでいるのだろう。
夫もどこかへ出掛けたようだ。
テレビの音声を聞きながら
夕ご飯の下ごしらえをしているうちに、
娘と夫が次々に帰ってきた。
食後、娘が買ってきた服を、
ファッションショーのように
次々に着替えて見せてくれる。
その姿を見ていたら、
華やかで美しく、それでいて
明るくて気さくな女性のことを思い出した。
彼は職場でさぞうらやましがられていることだろう。
夫も娘も早々に入浴し、自分の部屋に引っ込んでいった。
入浴後、浴室の床と排水口を軽く流し、
起きたらすぐ干せるようにと、
2人が脱ぎ捨てた衣類に、私のものを合わせて
増田文学になれなかった駄文
増田文学になれなかった駄文
http://anond.hatelabo.jp/20170608125646