2013-09-26

なぜ菜穂子ひこうき雲なのか

風立ちぬを二回目見てきました。

自分はこの作品が大好きで、宮崎駿先生最高傑作だと思います


最初風立ちぬを「ものづくり物語」だと思って見ました。ですから菜穂子との恋愛模様については、いわゆる一般人向けの撒き餌だと思っていたんです。

その後、岡田斗司夫先生ニコニコ動画におけるレビューをみて、恋愛模様と人物しか見ていないことにショックをうけたんですね。

しかしその考察は凄く説得力があって、なるほど人物面もここまで描写されているのなら、撒き餌と切り捨てるのはいけないのかもと思い直しました。

でも、自分はああい文系インテリ頭でっかちというか、よく歯が浮いて飛び出さないなという感じの引用ゴッテゴテな論理展開が大嫌いで、それにただただ迎合するのも耐えられません。

そこで、自分なりの、「ものづくり物語」としての風立ちぬについて、菜穂子二郎恋愛を飲み下してやろうと、二回目に挑戦してきたわけです。


二郎にとって、菜穂子飛行機は同じなのだ。というのが結論です。


これは、二郎にとっては菜穂子飛行機も同じだという意味ではありません。二郎はそこまで狂ってはいないと思います

宮崎先生が、二郎飛行機二郎菜穂子関係を、意図的シンクロさせて描いているんです。

これは文系御用達引用メタファーとかではなく、素直に風立ちぬを鑑賞すれば感じ取ることができる類のものです。


まず、主人公二郎人格について自分の感じたところを説明します。

彼は、飛行機に対して理想の高い人です。同僚の本庄などはドイツで学び「ユンカースかぶれ」の八試特殊偵察機を作っていましたが、あくまで自分の中の理想飛行機を追い求めます

恋愛に対してもそうです。彼のアプローチはかなり独特で、「一番カッコイイところを見せてさっそうと去る」の一手のみ。ぐいぐい迫るなどという格好わるいことはしたくないんですね。作中を観察してみると、女性を見るとさっと居住まいを正して微笑みかけて回っているので、女性に興味が薄いわけではないのですが。


次に、それぞれがどういう結果を招くかというと・・・

飛行機については頑張りぬいて理想のものを形にします。九試単座戦闘機ですね。しかし、その末路といえば、敗戦で、一機も帰ってこなかったのです。

恋愛についてもそうです。菜穂子と誰もが羨む恋愛結婚で結ばれますが、彼女はすぐに結核で亡くなってしまます


両方とも、予めわかっていた結末です。戦争に勝てっこないことはわかっていたし、一緒に幸せになれないこともわかっていました。

それでも、きれいな嘘で塗り固めて、どうにか形にだけはした。そこまでしか出来ないのが、エンジニアとしての、男性としての二郎だったんです。


ものづくり物語を本気でやろうとすると、「わかるかな?わかんないだろうな」という問題が沢山出てきます

飛行機を作ることのひきこもごもなど、ピンと来ない人がたくさんいます。そこで宮崎先生が誰でもわかる恋愛のひきこもごもで例え直したのが、菜穂子存在だったのです。






以降蛇足エンジニアとしての二郎と、男性としての二郎比較


彼は幼少期、空に憧れていました。でも、近眼のため、パイロットになれないことは既にわかっています。そこで、設計者として飛行機に携わるのなら、自分にもできると思い立ちます

自分の考えに当てはめるとここは、母親へのあこがれが、他人の女性に向くということにあてはまるのでは・・・と考えます


七式艦上戦闘機試験飛行で大破しました。

差し出したシベリアは突き返されます二郎のええかっこしいのアプローチ女児にすら受け入れられません。


本庄ドイツで学び、ユンカースかぶれの八試特殊偵察機を作り上げます二郎自分理想を追い求め、九試単座戦闘機を作り上げます

本庄見合い結婚します。二郎は数年離れ離れだった菜穂子と再会し恋愛結婚します。


海軍陸軍との打ち合わせの時、話を聞かずに「全力を尽くします」といいます

本当は最初菜穂子よりお絹が好きだったにも関わらず、それを隠します。


菜穂子は治るかわからない結核をきっとなおすと言います

日本は勝てないとわかっていても、戦争します。


九試単座戦闘機は完成し、試験飛行で美しい姿をお披露目します。

菜穂子結婚式をあげます。美しい花嫁衣装でした。


菜穂子は「一番きれいな時」だけ二郎にみせて、彼のもとを去り、帰らぬ人となります。死を看取ることはできませんでした。

九試単座戦闘機戦場へ飛び立ち、一機も帰ってきませんでした。エンジニアである二郎は、本土で待っていることしかできませんでした。


最後ありがとうは、菜穂子にも、九試単座戦闘機にも向けられていると思います

引っ込み思案な性格二郎が、理想恋愛結婚という夢を見られた。

貧しい国に生まれた二郎が、理想飛行機という夢を見られた。

その二つのめぐり合わせに感謝する意味だったんだと思います


飛行機を作ることは、兵器を作ることだという呪いを、不治の病(厳密には違うが)に冒された女性との恋愛を、このようにシンクロさせているわけですね。

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