2023-12-14

anond:20231212172917

まず手塚治虫デビューした頃の印刷技術の話になるんだけど、そもそも自分が書いた絵がそのまま印刷されるわけではない。

浮世絵なんかと同じでマンガ家の絵は原画で、それを版画の原板みたいに別の人が写して印刷する。

浮世絵ほど手間暇かけてないので、微妙な線とかは再現されない。

のらくろ」なんか、田河水泡原画は線がすごく美しくて感動するけど、印刷された「のらくろ」は潰れた線みたいな感じになってたりする。

手塚治虫の初期の頃も同様。

 

次に、マンガ根本的な技術命題として、たくさんのコマを連結するために、それぞれのコマの絵の登場人物の見分けがつかないといけない。

同じキャラクターのつもりで書いてても別人に見えてしまうとか、別人のつもりなのに混同されるとか、これは今でもしょっちゅう発生する。

これを上記のような未熟な印刷環境の中で発生しないよう、キャラクターの明確な書き分けをしないといけない。

なので、見分けのつきやすいパーツでキャラクター構成する必要がある。

のらくろが他が白犬なのに一人だけ黒いのは、アメリカのフィリックス・ザ・キャットのフォロワーであるのと同時に、主人公を埋もれさせないため。

 

ここに「キャラクター感情表現」の問題が絡んでくる。

昔のマンガ入門なんかだとキャラクター喜怒哀楽の表情のラインナップが並んでたりしたんだけど、

同じ登場人物なのに、泣いたり笑ったり怒ったりで顔を構成してるパーツがまるきり違うのに気づくと思う。

あれ?

パーツが違ったら別人、別キャラクターなのでは?

……と、感情表現のつもりで異なるパーツを使うと、読む側が別のキャラクターだと認識してしまうかもしれない。

昔の有名な漫画キャラクターは表情変化に乏しいことが多い。

キャラクター同一性重要なので、顔が大きく変化させにくい。

アニメだと連続的にアニメートすることで激しい表情変化でも同一性比較的らくに示せるが、マンガはそこが大変。

なんで縦筋や汗の漫符表現必要なのかと言えば、表情が変わらないままで感情表現するため。

 

ようやく手塚治虫が何をやったかの話になるんだけど、

複雑な長編ストーリーを描きたいが、そのためには必要な道具が多数ある。

まず登場人物がたくさん出てくるのを、見分けがつくように交通整理しなければいけない。

その複数登場人物ストーリー展開によって複雑に変化していくのをわからせなければならない。

主人公だけでなく複数人物感情ダイナミックな動きをキャラの書き分けを維持しつつ表現しなければならない。

それができないとストーリーが示せない。

なので、絵の情報整理をやった。

有名なスターシステムは、キャラクターの書き分けのための土台。

劣悪な印刷環境で見分けがつくため記号化されたパーツを、それぞれの定番キャラクターごとに整理し、見分けがつきやすくする。

その土台の上に、感情表現のための記号パーツを組み合わせる。

これで顔の構成パーツが大幅に入れ替わっても同一人物だとわかり、その人物感情が変化していることが表現できるようになる。

手塚治虫が「マンガ記号だ」と説明したのを、なんか面倒な理屈でこねくりまわす人がいるけど、

複数登場人物の複雑な感情の動きを表現してストーリーを描くために、記号の整理分類、使い分けを行ったんだよね。

 

これ、手塚治虫アニメ進出したときに導入した「バンクシステム」と考え方が一緒なんだよね。

というか、マンガ改革成功体験を元にバンクシステム提案したんだろうけど。

「同じ絵を使いましてセル画節約すればいい」という、「同じ絵」はつまり記号」なんだよね。

マンガ記号だ」と言った手塚治虫からアニメの絵も記号だ」という発想に行きつく。

こういう発想ってさ、「芸術家」じゃないわけでしょ。

芸術としての絵画は1枚だけのオリジナル性、作家の手に宿る技術の唯一性に依拠するわけだけど、

手塚治虫が優先したのは、ずっと、絵よりも何よりもストーリー

ストーリーのための絵であって、優先順位は常に絵が下位。

から絵を分解分類して記号にしていいし、アニメーションを分解整理してバンクシステムを作れる。

こういう人じゃないと、そもそも絵描きなのに絵を下に置けない。

 

ストーリーを描きたいという自分目的のために、既存の仕組みを分析解体して再構築し、現代日本マンガの基礎を作った。

その仕組みを応用できると考えて、アニメ産業進出産業構造を変えたベンチャー起業家でもあった(会社潰れたけど)。

俺が「産業人」と言ったのは、そういう意味です。

記事への反応 -
  • 先に行っておくけど、手塚治虫本人や創作物を否定や批判する気はない。 火の鳥は面白い章もあった。ブラックジャックは面白かった。 でもほかのやつは俺に合わなかったのかそんなに...

    • 昔の作風なので俺もそんな合わない   手塚治虫って自分の作品を後から時代に合わせる形で改変するのだが、改変前よりイマイチになってるの多いよね 有名なのでいうと「新寶島」は...

      • やっぱ業界人としての貢献がすごいって話に行き着くのかなあ 漫画そのものがすおぎのはそうだけど、画力やストーリが天才ってよりかは仕組み的な評価が大勢を占めるんだろうね

        • まず手塚治虫がデビューした頃の印刷技術の話になるんだけど、そもそも自分が書いた絵がそのまま印刷されるわけではない。 浮世絵なんかと同じでマンガ家の絵は原画で、それを版画...

        • 画力やストーリが天才 そんなん時代とともに更新され続けてるのになにしにきたんとしか 手塚なければワンピなしやで むしろ手塚以前の漫画だけをみろよ なんで手塚が生まれたのか...

        • 漫画的な技法やストーリー構造に革命を起こしたんだから、少なくとも当時の基準なら「画力やストーリーが天才」ってことにはならんの?

    • 俺的には三つ目がとおるが好きだったな、ああいう発想はさすが手塚治虫としか言いようがない

      • 「ああいう発想」と「さすが手塚」の詳細について聞きたいわけなんだが

    • クレクレ君久しぶりにみたわ

    • 漫画って言ったら4コマ漫画の時代にコマ割りしたストーリー漫画を作ったとか日本初のTVアニメーションが鉄腕アトムだったとかは聞くけど 担当編集に不公平感出さないために別々の...

    • Wikipediaより引用 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%89%8B%E5%A1%9A%E6%B2%BB%E8%99%AB 夏目房之介は、赤本時代の手塚漫画の達成として「コマの読み方」を変えたことを挙げている。それまでの日本の漫...

      • 漫画学術的にすごいってのはなんとなくそうなんだろうなってのは思うのよ でもなんとなく天才だー。すごいんだー。ってのが一般に広がって作品もすごいよねってなる風潮がよく理解...

        • そこは当時の人とか詳しい人達がすごいすごい言ってるからすごいんだろうなって感じやろ 漫画に限らず、詳しい人が解説してくれないと大抵の人はわからん

    • ・戦後漫画のパイオニアになる ・大ヒット作品をたくさん残している ・テレビアニメの発展に貢献する ・多くの漫画家を育成して影響を与える 十分じゃね? 単純に手塚以上に業績を残...

      • 漫画パイオニア、アニメ、漫画家育成は漫画そのものより仕組み、枠組みでの評価だよね 俺が言いたいのは漫画そのものも評価されててそれって過大に見えるなあって話をしてるわけな...

        • 面白くなければパイオニアになれるわけないじゃん。 藤子不二雄や石ノ森章太郎、赤塚不二夫なんかが揃って「手塚治虫作品に衝撃を受けて漫画家を志した」と言ってるわけでな。

        • ストーリー自体が革新的だったのだから、当時の基準なら漫画自体がめちゃくちゃ面白かったんじゃないの?

        • あれだけ多作なうえに、時期によって作風もガラッと変えて、それでも誰でも知ってるような作品やキャラをいくつも生み出しているというのは、やはり空前絶後だと思うけどね。 もち...

    • 火の鳥とブラックジャックが面白ければそれでいいんじゃないの? 俺はアドルフに告ぐも面白かったがな。

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