2019-06-06

[] #74-10「ガクドー」

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そして話を現代に戻そう。

兄貴はいこれ」

ある日、弟が帰ってくるや否や手紙を見せてきた。

ハテナ学童の近くを通ったときハリセンから渡されたらしい。

「あの学童所が引っ越すんだって名前も『ハテナ学童から、なんかよく分かんないのに変えるとか」

しろ、あのボロい住処でつい最近まではやっていたことに驚きだ。

それにしても、引っ越すだけではなく名前も変えるのか。

事実上解体だな。

「で、引っ越す時に手伝って欲しいって。ボランティアで」

ボランティアねえ……」

恐らく、タダ働きってことだろう。

本来ボランティアには無償労働なんて意味はないのだが。

いくら学童のよしみだからって、些か図々しくないか

「で、兄貴は行くの?」

まさか。俺たちはあの施設に金を払って、不本意にも預けられていただけだぞ。引越しの手伝いなんてする義理はない。経済回すためにも業者に頼めってんだ」

「大した理屈だけど…兄貴だって義理はなくても人情はあるでしょ。形がどうあれ、それでも世話になったと言えなくもないんだし」

署名活動の時やたらと泣き喚いていた弟が、随分と健気なことを言ってくる。

俺よりもロクな思い出がなかった場所だろうに。

「他の子もくるだろうし、皆で久しぶりに何かやるのもいいんじゃない。少しでも思い入れがあるならさ」

「にゃー」

膝に乗っていたキトゥンが、弟と呼応するように鳴き声をあげた。

そういえば、キトゥンと出会ったのも学童時代出来事が遠因か。

いや、キトゥンだけじゃない。

ウサク、タイナイ、カン先輩、今でもよろしくやっている友人もいる。

その点では無下にもしにくい、思い出の場所といえた。

まあ、それでも俺の意志は揺らがないが。

「いずれにしろ、その日の俺はバイトだ。ボランティアと比ぶべくもないな」

実際のところ、都合悪くバイトの予定はない。

建前上、そう断っただけだ。

「はあ、分かったよ。じゃあ俺は、父さんと母さんにも聞いてくるよ」

弟がそう言って部屋から出ようとした時、俺は慌てて扉を遮った。

「待て弟よ。分かった、俺も行く」

「え、急にどうしたんだよ」

もし両親が手伝いにいけば、他の保護者学童の子とも話すに違いない。

俺たちの学童時代の話や、身の上話もするだろう。

ティーンエイジャーにとって、そんな状況は想像するだけでキツかった。

親というフィルターにかけられた子供の話ほど聞くに堪えないものはない。

「俺が行く以上、人手は足りている。だからこの件は他言無用だ。もし聞かれたら『学童の子だけでやることだから』と答えろ」

バイトはいいの?」

「思い出の場所に別れを告げるんだ。バイトとは比ぶべくもない」

まあ、なんだかんだで“思うところ”もある。

ボランティア”しようじゃないか


…………

そうして俺たちは『ハテナ学童』に赴いた。

建物は当時からボロかったが、久々に見たら更に酷くなっている。

「おう、マスダ。来てくれたのか」

久々に会ったハリセンも“ザ・中年”みたいな見た目になっていた。

「きてくれて悪いが、もうほぼ片付いているんだ」

かに俺たちがやることは残ってなさそうだ。

捨てるしかないような大き目の備品は、既に屋外に出ている。

それ以外はほとんどダンボールに入れられ、ほとんど車に押し込まれていた。

面倒な仕事は避けたくて遅めに来たものの、意外にも多くの人が手伝いに来ていたらしい。

「せっかく来たんだし、中でみんなと話したらどうだ」

手持ち無沙汰な俺たちに、ハリセンは気を利かしてそう言った。

促されて家の中を覗くと、元学童らしき人たちが談笑しているのが見える。

しかし、その中に俺たちの知っている人は少ない。

カン先輩よりも遥かに年齢が上の人ばかりだ。

俺たちは踵を返して外に出る。

「……俺と弟は外で待つよ。まだやることがあったら呼んでくれ」

知り合いもいるにはいたが、今では疎遠になってしまっている相手

お互い心身ともに成長して、ほぼ赤の他人のようなものだ。

話せることも話したいことも特になく、同窓会ってムードじゃない。

俺たちには、あの空間は居心地が悪い。

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