そのために、かなりアウトローなやり方に手を染める者もいる。
「なんか最近、砂糖の減りが早い気がする……お前ら、こっそり舐めたりしてないだろうな?」
「さすがに、そこまで意地汚い真似はしないよ」
「クチャクチャ……せやせや、虫に食われてんちゃう?……クチャ」
特にカン先輩のやっていた方法はえげつなかったので、今でも記憶に強く残っている。
「カン先輩、さっきからずっとガム噛んでますね。もう味しないでしょうに」
「いやいや、まだするよ。甘い甘い」
「“甘い”?……カン先輩の噛んでるのって、甘さがそこまでない奴だったんじゃ……」
「あ……いや、ちゃうねん。アレや、『お前の考えが甘い』って意味の“甘い”や」
なんと、学童にある砂糖をガムにまぶして、味の延命を図っていたんだ。
そんな感じで、俺たちは思いの思いのやり方でオヤツを楽しんだ。
「オバチャン、タコせん頂戴」
そのせんべいにソースを塗りたくり、マヨネーズをかけ、最後に揚げ玉をふりかけて提供される。
いま思うと、「タコのせんべい」だからじゃなく「タコ焼きみたいなトッピングのせんべい」だから「タコせん」って呼ばれていたのかもしれない。
「ソースは二度塗り、三度塗りやろ! 串カツちゃうんやぞ。マヨネーズと天かすも、もっとかけーな! ケチくさいなあ」
カン先輩の態度はちょっとアレだが、トッピング増しの要求は学童全員やっていた。
なにせこれ一つで手持ちがなくなるんだから、ちょっと図々しくなっても仕方ない。
「あ~、やっぱ天かす多い方がええな」
「その点は同意ですが、『天かす』じゃなくて『揚げ玉』って呼んだ方がよくないです? “かす”って言葉じゃあ響きが悪い」
「なにがアカンねん。『駄菓子』って言葉にも駄目の“駄”が入ってるやん。上品ぶらんと、ちょっと下品なくらいがちょーどええねん」
“下品なくらいがちょーどいい”
俺たちが食べる、トッピング増し増しのタコせんは見た目も味も下品だった。
本来のせんべいの味なんてしない、上品なんて言葉とは無縁の代物だ。
だが、それに比例して満足感も上がる。
俺たちはそれでよかったし、それがよかったと言ってもいい。
「それに、言葉の響きとか言うたら『揚げ玉』も金玉の“玉”やん」
「えー……、その理屈はともかく、だったら揚げ玉って呼ぶのも良くないですか?」
「なんでや、“天かす”やぞ? “天のかす”やぞ? 『腐っても鯛』と同じってことや」
「違うと思います。それに、先輩の最初の言い分から少しズレていっている気が……」
しかし下品だとしても、俺たちにとってタコせんは贅沢品だった。
飴玉ひとつを勿体ぶって舐めている間に、せんべいはなくなってしまう。
買うには多少の思い切りが必要なんだ。
だから食べる時は自然と口数が多くなり、どうでもいい話をして、コスパだとかいったものから目をそらすようにしていた。
だが、それでも“情念”は頭をもたげてくる。
「あ~あ、“このタコせん”でこの美味さだったら、“あのタコせん”はどれほどなんだろ」
通常のタコせんに更にタコ焼きが加えられている、憧れの存在だ。
「マスダ弟ぉ、その話はすんなって前に言うたやろ」
「でも気になるんだもん」
「それは皆同じなんだよ。でも気にしたってどうしようもないだろ」
挟んで食べるなんて夢のまた夢だった。
結局、俺たちはあの「真・タコせん」を食べないままティーンエイジャーになった。
今だったら、食べようと思えば食べられる。
だが、未だ手つかずだった。
あの時の憧れは嘘じゃないが、なぜか今は食べたいと思えなかったからだ。
ウサクは渋いというか、俺たちから見るとビミョーなものをよく食べていた。 パッケージのデザインが一世代前みたいな、俺たちが第一印象で候補から外すような、子供ウケの悪い駄菓...
週末のオヤツの時間。 その日に手渡されるのは菓子ではなく小銭。 つまり、各々で自由に買ってこいってことだ。 素晴らしき自主性の尊重、放任主義バンザイといったところか。 も...
控えめに言っても、学童生活はしみったれていた。 ただ、しみったれているなりに楽しみな時間もある。 その筆頭はオヤツの時間だ。 「ほーい、みんな皿持ってって~」 ハリセンが...
学校とは違うといったが、運動会などの行事もあるにはあった。 他の学童所の子供たちや保護者などが一同に介するため、ある意味では学校より盛り上がっていたかもしれない。 「ハ...
妙な風習こそあるものの、学童での活動は義務じゃない。 強制させられる事柄がないのは数少ない長所だ。 ただ、ここでいう“強制”って言葉は、任意の逆を意味しない。 何の意義...
学童は小学生を預かる場所だが、色んな点で学校とは異なる。 なにせ下は1年、上は6年生までが小さな家屋に収まっている。 通っている学校や、性別だってバラバラだ。 そんな狭くて...
そこでの生活は学校ほどかしこまってはいないが、俺たちにとっては監獄も同然だった。 小国と大国の刑務所を比べることに、さして意味はないだろう。 だが、俺たちは悪いことをし...
年号が変わる意味なんて分からないけれど、何事にも節目ってのはある。 生まれて十数年しか経っていない俺だって、勿論そうだ。 身長は伸び、それに比例して体重も増えて、ついで...
≪ 前 そして話を現代に戻そう。 「兄貴、はいこれ」 ある日、弟が帰ってくるや否や手紙を見せてきた。 ハテナ学童の近くを通ったとき、ハリセンから渡されたらしい。 「あの学童...
≪ 前 元からあってないような気力で来たものの、俺と弟は少し憂鬱になっていた。 ハテナ学童は、もう完全に自分たちから離れている。 とはいえ、うっすら分かっていたことだし、...