2019-06-01

[] #74-5「ガクドー」

≪ 前

学校とは違うといったが、運動会などの行事もあるにはあった。

他の学童の子供たちや保護者などが一同に介するため、ある意味では学校より盛り上がっていたかもしれない。

ハテナ学童カンくん、これは速い! 一輪走の関門、魔の直角コーナーを何なく曲がっていく!」

「ははん、当たり前田クリケットや! ワイほど一輪車をこいどる人間は、この世に誰一人おらん!」


あくま学童所での交流目的であるためか、競技性を重視しないものが多かった。

ブクマ学童のシオリ先生は、素手で瓦を一枚割れる。○か×か」

「そんなの知らんがな」

「まあ、でも一枚くらいなら割れるんじゃない?」

「じゃあ○の方に行こう」

○×クイズなどの運動必要としないものなどもあった。

「正解は……シオリ先生、実際にどうぞ!」

「せいっ!……痛い」

「というわけで正解は×の割れない! 全員、不正解です」

「ヒビすら入ってないじゃん」

なんや、この意味不明かつ、しょっぱいクイズは」


保護者が参加する、障害物盛りだくさんのパン食い競争なんてものもあった。

「マスダくんのお父さん、全身を紙テープと粉まみれにしながらも、堂々の1位でゴール!」

「ぜはっ、ぜえ……げほ……」

デスクワークのくせにやるじゃん、父さん」

子供の前だからって、パン食い競争で本気出し過ぎじゃないか?」

「はあっ……母さんがいれば、もう少し楽に勝てたんだろうがな……」

「父さん、そういうノリ、こっちも反応に困るからやめてくれよ」

「すまん……」

「湿っぽい雰囲気出すのもやめてくれって。変に含みのある言い方するから、周りには離婚したとか、母さんが死んだとか思われてんだよ」

「そうなのか……おえっ……ほら、餡パンだ」

「いらねえよ、歯形ついてんじゃん」

思い返してみると、この頃の父は少しテンションおかしかった気がする。

母が戻ってくるまでの間、最も辛い思いをしていたのは父だったのかもしれない。


長男マスダくん! 他の走者をどんどん引き離していく」

俺が参加したのはリレー

コマの回転は全くゆるまな~い!」

ただしバトンは使わず、代わりにコマを使う。

コマは回っている状態で、それを手の上で乗せて運ぶんだ。

まさか学童暇つぶしにやっていたコマ回しを、こんな風に活用させてくるとは思いもよらなかった。

「おい、何やってんだよタイナイ。ゴール近いんだから、そんな丁寧に巻かなくてもいいだろ」

「僕の腕じゃあ、中途半端に巻いての手乗りは無理なんだよ。どじょうすくいだってギリギリなんだから

まあ、結果としては3位だったが、タイナイが言うには2位だったらしい。

「今でもマスダは、この日のことを根に持ってるよね」と、よくタイナイは語る。

しろ根に持ってるのは、タイナイの方じゃないかと思う。


弟は缶ぽっくり競争に出場。

「おーっと、次男のマスダくん。これは速い、圧倒的だ!」

ハテナ学童内でもダントツだった弟の缶ぽっくりは、外でも変わることはなかった。

普通に走るのと大差ないスピードで、他を寄せ付けることなくゴールにたどり着いた。

「あれ、もう終わり? 短っ」

「さすがといったところだな、弟よ」

兄貴の作ってくれた缶ぽっくりのおかげさ!」

「いや、缶に穴を開けて、紐を通しただけだから誰でも作れるぞ」

所詮学童内での、内輪ノリ的な催しでしかない。

だが、あの時の俺たちは本気でやったし、その結果に一喜一憂することができた。

次 ≫
記事への反応 -
  • 妙な風習こそあるものの、学童での活動は義務じゃない。 強制させられる事柄がないのは数少ない長所だ。 ただ、ここでいう“強制”って言葉は、任意の逆を意味しない。 何の意義...

    • 学童は小学生を預かる場所だが、色んな点で学校とは異なる。 なにせ下は1年、上は6年生までが小さな家屋に収まっている。 通っている学校や、性別だってバラバラだ。 そんな狭くて...

      • そこでの生活は学校ほどかしこまってはいないが、俺たちにとっては監獄も同然だった。 小国と大国の刑務所を比べることに、さして意味はないだろう。 だが、俺たちは悪いことをし...

        • 年号が変わる意味なんて分からないけれど、何事にも節目ってのはある。 生まれて十数年しか経っていない俺だって、勿論そうだ。 身長は伸び、それに比例して体重も増えて、ついで...

  • ≪ 前 控えめに言っても、学童生活はしみったれていた。 ただ、しみったれているなりに楽しみな時間もある。 その筆頭はオヤツの時間だ。 「ほーい、みんな皿持ってって~」 ハリ...

    • ≪ 前 週末のオヤツの時間。 その日に手渡されるのは菓子ではなく小銭。 つまり、各々で自由に買ってこいってことだ。 素晴らしき自主性の尊重、放任主義バンザイといったところ...

      • ≪ 前 ウサクは渋いというか、俺たちから見るとビミョーなものをよく食べていた。 パッケージのデザインが一世代前みたいな、俺たちが第一印象で候補から外すような、子供ウケの悪...

        • ≪ 前 とにかく、俺たちはオヤツを効果的に楽しもうとした。 そのために、かなりアウトローなやり方に手を染める者もいる。 「なんか最近、砂糖の減りが早い気がする……お前ら、...

          • ≪ 前 そして話を現代に戻そう。 「兄貴、はいこれ」 ある日、弟が帰ってくるや否や手紙を見せてきた。 ハテナ学童の近くを通ったとき、ハリセンから渡されたらしい。 「あの学童...

            • ≪ 前 元からあってないような気力で来たものの、俺と弟は少し憂鬱になっていた。 ハテナ学童は、もう完全に自分たちから離れている。 とはいえ、うっすら分かっていたことだし、...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん