何の意義があるか分からないまま、漫然とやっていたこともあった。
「お願いしま~す」
ある日、俺たちは署名運動をやることになった。
何のためにそんなことをしていたのか。
答えは「さあ?」だ。
わざわざそんなことをさせるんだから、俺たちにも関係のある事だったのかもしれない。
しかし、いずれにしろガキには分からないし、知ったこっちゃなかった。
それでも言えるのは、全くもって楽しくないってこと。
「お願いしま~す」
「……」
見知らぬ人にいきなり話しかけ、とにかく名前を書いてもらうよう頼み込む。
人と接するのがよほど好きだとかでもない限り、基本的にストレスが溜まる行為だ。
有り体に言って不愉快だった。
「お願いしま~す」
無視してきたり、ぶっきらぼうに応対する人もいるから尚更である。
いい気はしなかったが、その人たちに恨みはない。
つまり俺は、自分がされて嫌なことを赤の他人に対してやっていたわけだ。
「はい」
それでも、なんだかんだで署名は集まった。
我ながら無愛想な態度だったが、書いてくれる人は意外にもいた。
なんとも不可解な出来事だ。
よく分からないまま名前を集める俺たちと、よく分からないまま名前を書く誰か。
そうして集まったこの紙の束に、一体どんな意味があるのだろう。
「兄貴……」
弟はというと、その日はずっと申し訳なさそうにしていた。
弟は当時、人見知りが激しかった。
免疫細胞がなくなれば、人は泣き喚く以外の行動はできなくなる。
「自分の分をやっただけだ。謝られる筋合いはない」
実際、ノルマがあるわけでもなかったので、俺は弟の分までやったとは思っていない。
サボりたかった気持ちを、長男の安っぽいプライドが邪魔しただけだ。
お互い誇れるようなことはしていないが、恥じるようなこともしていない。
「でもさあ……」
「それでも何か言いたいことがあるなら、謝るより感謝してくれ。どっちかっていうと、そっちの方がマシだ」
結局、あの署名にどのような効果があったのか、今になっても俺たちは知らない。
ただ、あの時やったことが何かに繋がっている、と願うしかなかった。
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