むかしむかし、ではなく現代のおはなし。
学生の頃から友達にマンガを見せるのが好きで、マンガを描き続ける学生時代を送った彼は、
首尾よく新人賞を取り、デビューしたものの、連載は打ち切り。
辛うじて単行本は出たものの、全く売れませんでした。
編集者に新作のネームを見せるものの、反応は芳しくありません。
Bは学生時代の友人Aに長電話で愚痴ったり、ドス黒いツイートをしてみたりと、
失意の日々を過ごしていました。
ある日、Bがツイッターを見ていると、一つのツイートが回ってきました。
それを見たBは驚きました。そのツイートで「××が〇〇する話を描きました」と言ってアップされていた画像は、
自分が描いたマンガだったのです。
Bは激怒しました。
これが自分の作品であると示すために、原稿データの画像とamazonリンクを貼ってリプライしました。
プロの作品を自炊してマンガ家になりすます、そんな卑劣な奇行にネット民は飛びつきます。
一連のツイートは瞬く間にまとめれられ拡散、なりすましのアカウントは大炎上。
ネットニュースにも取り上げられ、なりすましはアカウントを消して逃亡。Bには多くの人から温かいリプライがよせられました。
「これはひどい。なりすましは地獄に落ちるべき」「応援してます。単行本買いました」「承認欲求は決して満たされぬ地獄。恐ろしい恐ろしい」等々。
塞翁が馬、というべきか、結果的にこの炎上騒ぎで電子書籍が売れ、紙の単行本にも重版がかかりました。
もちろん大ヒット、などというにはほど遠いのですが、いくつか読切の依頼なども舞い込み、
Bのマンガ家人生は再び動き出しました。
今日もBはマンガを描き続けています。
*************************
以上がおれの身に起きた小さな事件の顛末だ。
激怒したおれは、ツイッター社になりすまし犯の情報開示を求めた。
あきらかな著作権侵害ということもあり、情報はあっさり開示された。
犯人は、学生時代からの友人A、赤尾だった。
怒り狂ったおれは、あいつのところへ押しかけ、怒鳴り散らし、
自炊の為に裁断されていたおれの単行本だった紙束を投げつけ、
絶交を告げた。赤尾の額からは血が出ていた。赤尾は何も言わなかった。
それから一週間、赤尾の事を振り切るように新作のネームに没頭していたおれに、
ふと一つの考えが浮かんだ。
おれはあいつに酷い事をしてしまったのではないか。
いや、作者に無断で単行本を自炊してネットにアップする、
これは許されない行為だ。それは確かだ。
あまつさえ赤尾は自作のふりをしたわけで、そこに弁護の余地はない。
だが、無断でアップされなければ、おれはここまで怒らなかったろうし、
そうなれば、ただのツイートとして、ネットの海に埋もれていたのではないだろうか。
「承認欲求を満たしたいゲス野郎に勝手に作品をなりすましツイートされた悲運のマンガ家」
という物語があればこそ、あのツイートはバズり、結果としておれのマンガが多くの人のところへ届いたのではないか。
そして赤尾はそれを計算していたのではないか。
赤尾は、たびたび売れないマンガ家の愚痴を聞いてくれた。
学生の頃からずっとおれのマンガを面白いと言ってくれていた。
言い続けてくれていたのだ。
とはいえ、もうそれを確かめることはできない。
純粋に悪意なら、確かめる必要がない。
また、確かめて、もし赤尾の行動が善意だったとしたら、
おれは赤尾の行為の真意を世に示さなければいけない。
そうすると世間は一連の行為を自作自演の延長にある恥知らずな行動と受け止めるだろう。
だとしたら、それを明らかにすることは赤尾の望みに反してしまう。
遠い日の赤尾の言葉がおれの頭の中で乱反射する。
「お前のマンガ、面白いよ。たくさんの人に読んでもらうべきだよ」
赤尾はあいつなりのやり方でそれを果たそうとしたのではないか。
怒りにかられたおれは、あいつがどんな表情をしていたかすらろくに覚えちゃいない。
あのとき、
それ以前にあのツイートをしたとき、
おれの単行本を裁断して自炊したとき、
あいつはどんな顔をしていたのだろうか。
おれはどうすればいいのだろう。
どうすればあいつに、報いることができるのだろう。
炊いた、赤尾に。
ツイッターのアカウントとかどうせ匿名だし炎上とかどうでもよくない? 赤尾は新しいアカウント作ればいいし ブルーオーガだって、赤尾の連鎖先ケータイから消したわけでもないんで...
泣いた赤鬼か?
姪(泣)
面白かった。
ワロタ 綺麗だ
うまいな