明日がプレミアムフライデーかと思うと落ち着かない。ようやくここまでたどり着いた。人類の歴史は普通選挙の歴史と言われるが、明日からはプレミアムフライデーの歴史という概念が加わるだろう。父の無念を思う。父はプレミアムウェンズデーに殺された。
378回目のプレミアムウェンズデーのその日、プレミアムフライデー推進委員会の委員長であった父はプレミアムウェンズデー撲滅運動の渦中にいた。「プレミアムウェンズデーに意味なんてない、プレミアムフライデーにしろ」というのがその主張であった。理由は知らない。とにかく父は「プレミアムフライデー」という造語を愛し、それ故最大の抵抗勢力「プレミアムウェンズデー」を憎んだ。
街は戦場と化した。飛び交うジャガイモ、玉ねぎ、人参、鯖、海老。プレミアムフライデー派は劣勢であり、命の危険さえあった。ここで死に至ればカレーの具にでもされてしまう。そんな折、プレミアムサタデーから声を掛けられた。「我々と組まないか?」
「どんなメリットがある?」
「いいか、我々プレミアムサタデーはもはや壊滅の危機だ。プレミアムサンデーが真っ先にやられたことを思えば当然だろう。民意を得られないんだ」
「何が言いたい?」
「プレミアムフライデーは次の日がサタデーであることを前提にした主張。そうだろ? プレミアムサタデーがやられたら君たちの後ろ盾はなくなる。せいぜいプレミアムサーズデイと共倒れってとこだろうな。そこで我々が組む。相乗効果だ。毎月最終金曜日だなんて馬鹿げた主張を終わりにして、毎週にしたっていい。プレミアムウェンズデーの奴らにそんな真似はできないだろうな。何しろ奴らは週の真ん中。諸刃の剣なんだよ」
こうしてプレミアムフライデーはプレミアムサタデーと組んだ。我々に脅威を感じたのかプレミアムウェンズデーの矛先はプレミアムマンデーとプレミアムチューズデーに向かい、あっという間に二陣は壊滅した。後はプレミアムウェンズデーとの一騎打ち、と思っていたところ、父は殺された。プレミアムウェンズデーに。プレミアムサタデーが寝返ったのだ。
プレミアムウェンズデーはプレミアムサタデーと秘密裏に交渉を進めた。「プレミアムサンデーがエピタフに刻まれている今、本当にすべきことは我々が組むことだ」
「断る。我々はプレミアムフライデーと共闘している」
「良く考えるんだ。君はサタデーの本質を理解しているのか? アイデンティティはあるのか? 君は自分がサンデーだとでも勘違いしているんじゃないのか? 本当のことを教えてやろう、お前はただのバッファなんだ。プレミアムフライデーが実現したらどうなる? フライデーがプレミアムだった分、バッファとしてのサタデーにツケが回ってくるのは自明。そうじゃないか? だったら君がすべきことは唯一つ。プレミアムウェンズデーと手を組むことだ。君たちの共闘が破綻することは目に見えている。プレミアムフライデーに都合良く使われるだけだ」
「そんな」
「我々はそんなことはしない。地政学上、君たちに直接干渉することは不可能だ。だからこそできることがある。我々は君をバッファとして見てはいない。正式な休日とすることを画策していこうと思っている。これは豊富な経験と資金力があるプレミアムウェンズデーだからこそ実現できることだ。今プレミアムサタデーが実現すればどうなる? 我々の協力で2日間の仕事の後にまた休めるんだよ。それに加え、サンデー、ウェンズデー、サタデーとが等間隔に配置され平和が訪れる。もう無駄な争いはやめよう。我々と手を組むんだ。いいね?」
私は父の無念を晴らすため、あらゆる手段を講じて政界へと進出した。そして、長い時間をかけてプレミアムウェンズデー及びプレミアムサタデー派を排除していった。目的を遂行するためなら残酷にもなれた。私は遂にプレミアム制定大臣にまで上り詰め、プレミアムフライデーを制定することを宣言した。その時既に私はプレミアムフライデー派閥の権力も掌握していたので、受け入れられるのは容易であった。国民の殆どはプレミアムウェンズデーでもプレミアムフライデーでもどっちでもいいという態度であった。
遂に夢が叶う。父さん、仇を討ったよ。そして信念を実現できる。明日は素晴らしきプレミアムフライデーだ。「おーい、ワインを持ってきてくれ」と曜子を呼ぶ。私の愛人だ。今夜くらいプレミアムしたっていいだろ?
摩天楼を眺めながら曜子と乾杯をする。ワインを口にする。私は倒れる。曜子が私を見下している。
「気分はどう? 明日はプレミアムフライデーなんですってね? おめでとう。でも私はそんなものは認めない。これは父の復讐よ。プレミアムサンデーを知っているかしら? あなたの父はプレミアムサタデーと組むためにプレミアムサンデーを殺したのよ。あら、知らなかったの? 可哀想。だけど仇は仇よ。あと1分くらいの命かしら。せいぜい一人でプレミアムな夜を過ごしなさい。あなたが待ち焦がれたフライデーは来ないけどね。さよなら」