白い犬とワルツをを読んだ。高校生の頃背伸びして挑戦した挙句、読みにくいと思ってほんの十数ページで諦めてしまった作品。時間が経ってから読むことができて本当に良かった。読書力もついたのかと思うと感慨深くもある。
文庫本のあらすじと解説には大人の童話や大人のメルヘンと言った言葉が出ていたけれど、個人的には真摯に老いというものと向き合った小説だなって思った。老人特有の頑迷さや、年老いた父親を思うがゆえにすれ違ってしまう子どもたちとの関係など、もどかしくもどこか清々しい描写で表現されていて心地の良い小説になっていた。
主人公の老人サムの家近くに住んでいる娘のケイトとキャリーがいい。父親が心配なあまり明後日の方向に思考が向かってしまって、その顛末がコミカルに描かれている。現実生活だったら、二人の娘の言動は空気を重くさせる過剰な心配心に違いないんだけど、それを感じさせないところに作者の手腕とあたたかな家族への思いがあるように思う。
また長く主人公の家庭で仕事をしていたニーリーの存在も面白い。学がなく迷信深くて精神的にも不安定な老婆なんだけど、彼女の純粋な精神もまた描かれているのが素敵だった。それぞれが家庭を持ちしっかり子どもを育てている親たちなのに、ニーリーの前に集まると子どもたちに戻ってしまう展開も微笑ましかった。これまた現実にあれば、事と次第によっては殺意さえ覚えかねない厄介人ではあるんだろうけど、柔らかく書ききっているところがすごいと思う。
そして何よりもタイトルにもなっている白い犬が可愛らしい。人目につかず、他の犬からも吠えられないから幽霊とまで言われてしまう子なんだけど、控えめで臆病で主人公である老人サムにだけ心を許しているところが本当にいじらしく描かれてて良かった。立ち上がって歩行器に前脚をかける場面が何度かあるんだけど(タイトルの通りワルツを踊るような感じ)その風景を想像すると思わず頬がゆるんでしまう。犬好きにはたまらない内容でした。
老いると家族に秘密を作ることも、自由に行動することも難しくなる。互いに心配しているからこそ雁字搦めになってしまう苦悩が辛かった。実際身近に(自分のことだけじゃなくて)老いというものを感じたことがある人や、老いというものを一度でも真正面から考えたことがある人には突き刺さると思う。何もかもできなくなっていくけれど、出来る限り自分で成し遂げたい。自分がいてもいいことを、自分自身に証明したい。そんな年寄りの願いが表現されていたように思う。
また寂しさについても考えを改める切っ掛けをもらえた。知り合いも毎年のように死んでいいってしまって、同窓会に出てこられる人も両手で数えられるほどになってしまって、家族には心配と迷惑をかけてしまうし、自分では何にもできなくなってしまう。この作品で老人が感じる寂しさってのに初めてクリアに共感できた気がした。
後半部分でキリスト教を引用しながら素朴な善のあり方を描いていたのも印象的だった。ハワード一家はとてもいい家族だと思う。
最後のほうで自然と涙が出てしまった。華美ではないけど愛おしい物語でした。
それはそうと、アメリカってビスケットを生地から焼いて食べるのね。もう焼成してあるビスケットをもう一度温めなおしているもんだと勘違いしていた。アホだなあ。