はてなキーワード: 疫病神とは
互いに三十路も越えた兄妹だがもう何年も話していない。
兄は親を無下にしてきたしそういう姿に心底呆れてもう他人以下と思うことにしていた。
わたしは家を早々に出て一人で暮らしていたから、いい歳して実家に寄生し働きもしないニートの兄がつくづく気に入らなかった。なにより憔悴していく母親がかわいそうでならなかった。
昨年、母親から朗報が届いた。「お兄ちゃん、就職するって」と。安堵した。これで大好きな両親がのびのび生きていける。あの疫病神は去ったと思った。現に今年の正月に帰省した時は本当にのんびり過ごせた。母親も、なんだか若返ってキレイになっていた。
ああ、なのに、縁を切ったと思っていた兄から連絡が入った。「職場が近いから来い」と。
こわい。超こわい。
なによりそんなこという人ではなかった。他人を見下し家族をないがしろにしているひとがまさかたかが妹に連絡するものか。
ああ、こわい。でもお兄ちゃんが連絡をくれたのは嬉しい。でもこわい。また蹴られるかもとか思うと超こわい。
なんで年上のきょうだいってこんなに怖いんだ。
物心ついた時から「この家はあなたの家じゃないんだからね」と言われてきた。
弟や妹の面倒を見ていたし、成績も良かったし、わがままも言わないし(言ってもきいてもらえないし)、
なぜそんなこと言われるのか分からなかったけれど、
親の言うことに従っていればいつか弟たちのように可愛がられるのかと思い、
極力家に帰るのを遅くしていた。
中学から私立に行っていたこともあって、帰りに図書館で勉強し、寄り道をし、
高校に入ってからはアルバイトをし、晩ご飯がなかったため(作ってもらえなかった)
休日もできるだけ家にいないようにしていた。
しかし「自分の家じゃない」という意識のため、家を大事にするとか、掃除するとか、
誰かのものを勝手に使うとか(シャンプー、石けん、食器などなど)、
自分はしたことがなかった。
「置いてもらってる代」みたいなものだと思ってた。
家の所有者(もちろん家族)が入院し、疫病神扱いをされ、がっかりし、
こんなに安心で安全で快適な暮らしが世の中にあることに驚いた。
帰ってくるなとか、いさせてやっているとか、お前の家じゃないとか、
なにも言われない。
全部自己責任だけど、自分が使った以上に物は減らないし、グラスも知らないうちに割られない。
ガス代が上がったとかぐちぐち言われる事もないし、
早く帰って「もう帰ってきたの?」と言われる事もない。
それなのに、一人で出かけて、用事が早く終わると、
染みついた思考って怖い。