表題は多少盛っている。正確には上級国民と言えるほどの金持ちではない。が、そう言いたいくらいの気持ちになることはこれから書くことを理解してくれれば分かってもらえると期待している。
親からは、うちは貧乏だと言われて育った。でもゲーム機とかだって普通に買ってもらえるし、そんなに貧しさを痛感したことは正直無かった。大学進学を目の前にするまでは。
大学にやる金なんかないから勉強するなと言われていたし、実際勉強を大してしなくても高校偏差値58くらいの高校には進学できた。
この偏差値58の高校というのは中堅より下くらいの大学に進学する層だ。就職はいない。
そんな環境で自分はどうするのかと考えたときに、大学の学費はバカ高いことに気がついた。学費の安い国立大ですら年間60万弱かかる。これは私の父の年収の20%近い数字だ。それだけのお金を最低4年間都合しろ、なんて両親にはとても言えなかった。うちは3人兄弟で、自分の下にまだ二人の弟がいる。そもそも国立大なんかに入れるようなレベルの高校じゃないから私立となるけれど、私立大の学費は検討するのもバカらしい金額だ。
普通だったらこの時点で大学進学は無理だということになる。が、私はこの現実に非常にムカついた。勉強が好きだったわけではないが、得意なことだという自覚があった(井の中の蛙だけどね、この時点では)。それなのに大学に行けない。それにとてもとても腹が立った。
なので色々と計算して、国立大の半額の学費で通える国立夜間を目指すことにした。昼間に時給900円のバイトを1日6時間週5で働けば月収10万、このうち3万を学費のために積み立てて残り7万、4万円くらいの家賃のアパートに住むとして、食費が月1万、水光熱費も月1万と考えるとして、ギリギリやっていける計算だった。
で、勉強して無事合格。入学金とアパートの敷金礼金だけは親に出してもらって、あとは自分で頑張った。
それから詳細は省くが大学の先輩と結婚することになり、気がつけば上級国民かもと勘違いする程度には豊かな暮らしを手に入れた。
私が今豊かな暮らしをしているのは、間違いなく大学進学がきっかけだった。だが、その大学進学というのはあまりにも高い買い物のように思う。かかったコストとリターンを考えると非常に割りのいい投資だとは思う。が、それは年収300万程度の家(この金額は日本の年収中央値よりやや低いぐらいだ)には普通は無理な投資なのだ。
私が大学進学をしたのは将来的なリターンを考えたものではなくて、ムカついたからだ。大学進学というのがこんなにも大きなリターンを返すものなのだというのは大学を卒業してから知った。
そう、私が育った環境では、学校の先生以外に大学進学の価値を知っている人はいなかった。そりゃそうだ、手に入れたことがないどころか手に入れられる見込みも低いものの価値を知っている方がおかしい。
つまり、大学進学の価値を知っているのは大卒者の家でありその子供も大学に進学させられる。一方でその価値を知らない高卒者の家では子供も高卒でいいとなりがちである。
ここに大きな分断がある。
この分断をなくせ、なんてことは軽々しく言えない。
でも、分断の向こう側が見えないのはちょっと厳しいなと思う。私は大学に進学するまで大卒であって当たり前なんて世界は知らなかったし、きっとその逆もそうなんだろう。
だから私は、今の暮らしは生家の暮らしと比べて極端にお金持ちになったとは思わないけれども、上級国民になったなという気持ちになる。
もちろん上級国民なんて身分は存在しないよ。でも、今の周りの人々と生家にいた頃の周りの人々があまりにも違ってしまって、この言葉以外にしっくりくる言葉が見当たらないんだ。