作家のマーク・トゥエインは、禁煙について書いてはいるが、このジョークを言ったというたしかな証拠はない。
コメディアンのW. C.フィールズは、1938年に「禁酒講義」というラジオ番組で、「禁煙」ではなく、「禁酒」バージョンのギャグを言っている。だが、禁酒バージョンのギャグは、これよりも前にすでに広まっていた。
最も早い事例は、1907年に、ハリス・ディクソンによって書かれた“Duke of Devil-May-Care”というタイトルの小説である。その小説には「ポーカーをやめるなんて簡単なことさ。俺はゲームが終わるたびに、1000回以上もやめているぜ」みたいなセリフがあるという。
マーク・トウェインと禁煙ジョークの関連を調べてみると、1914年に、友人のエリザベス・ウォレスという人に、禁煙をしたいという手紙を書いたらしく、そのときの手紙が「マーク・トウェインと幸せの島」というタイトルの短い伝記に書かれているが、ここで書かれているユーモアは、例の「名言」とは異なるものである。
禁酒法がまだ行われている間の1929年に、ネブラスカのオマハ・ワールド・ヘラルドという人が書いている。「ハリーは酒をやめると言うが、笑わせるぜ。酒をやめられないことなんてないぜ。なぜなら俺自身、もう100回以上も禁酒しているからな。酒をやめられるかやめられないか、これでわかるだろう」
1932年に、鉄道が刊行している“Norfolk and Western Magazine”という雑誌には、禁煙についてのジョークがある。
「車掌のキャンベルは、たばこをやめたと言った。スチュワートは言った。「たばこをやめるのは簡単だよ。私は少なくとも100回はやめているからね」」
1935年の“The American Legion Monthly”の中に、酒でトラブルを起こす製材所の従業員を、主任が解雇させようとしたという、やや長いジョークがある。
「じゃあ何で私が解雇されなきゃならないんです?」
「仕事中に酒ばかり飲んでるじゃないか。そんなことでは、人も殺しかねないぞ」
「それならわかりました。なに、お酒をやめるなんて簡単なことです。実際私は、この10年で1000回以上もやめてきましたから」
1936年の“The Southwestern Sheep & Goat Raiser”という雑誌に、いま知られているジョークと非常に近いバージョンのジョークがある。
先日、友人の一人が私たちに、禁酒なんて簡単なことだと言った。「私はもう1000回もしているからね」
1938年、W. C.フィールドは、「禁酒講義」というラジオの中で、こんなジョークを言っている。
禁酒できないなんて言わないで。簡単なことさ。俺はもう1000回もしている。
1938年10月に発行された“Scribner's Magazine”では、「私、たばこやめます」という記事を発表した。
ある若者が、医者から禁煙するよう命じられたが、それができないと不平を言ったところ、年をとったテキサス州民がパイプを一服しながら答えた。「禁煙なんて世界で最も簡単なことさ。俺はもう1000回もしている」
マーク・トゥエインと禁煙ジョークとの関係が最も早く表れるのが、1938年12月の“Journal of the American Medical Association”.である。彼が1910年になくなってからだいぶ後のものだが、この中に「マーク・トウェインは、これまでしてきた中で禁煙が最も簡単なことだ、なぜなら1000回もしてきたからだと言った」とある。つまり、マーク・トゥエインと禁煙ジョークは、彼の死後になって結びつけられたのである。
1941年に、カリフォルニアの新聞のコラムニストに、酒飲みが理由で解雇された人のギャグがある。
「あなた、酒飲んでるでしょう。仕事中に飲酒すれば、人を傷つけたり殺したりしかねません」
「わかりました。ではお酒をやめます。お酒をやめるなんて簡単ですよ。実際私は、この2,3年で少なくとも1000回はやめましたから」
これは、先の1935年の製材所の従業員が解雇されたときの話とまったく同じである。
1945年のリーダース・ダイジェストで、マーク・トゥエインの名言として、「禁煙は、私がこれまでしてきた中で最も簡単なことだ。なぜなら1000回もしてきたからである」が掲載されている。
苦しく嫌になっても 延々と 喫い続けることで 98%は 完全に 禁煙できる ...