ユーリ!!! on ICE 、見てる?
「カザフの英雄」っていう字面を見て以来、ソワソワしていたものが、ユーリ・プリセツキーと友達になったあの瞬間に全てが弾けた。
カザフスタンを含む中央ユーラシア・テュルク系諸民族が持つ「民族英雄」の姿をはっきりと感じ取ったからだ。
カザフスタンは、歴史的にテュルク系諸民族が多く暮らしてきた土地である。
遊牧騎馬民族が繁栄した土地であり、彼らはテュルク系の言語と、それに基づく言語文化を持つ。
彼らの文化・信仰あるいは歴史は、口承文芸によって伝承された経緯があり、口承文芸のうちの一大ジャンルとして数えられるのが「英雄叙事詩」と呼ばれる物語形態だ。
カザフに限らずテュルク系諸民族の中で広く伝播した『アルパムス・バトゥル』や、キルギスの英雄叙事詩『マナス』は邦訳出版されており、母語によって英雄叙事詩の世界観に触れることができる。中央アジアを題材とした創作物でおそらく現在もっとも有名なのは森薫の『乙嫁語り』だろうが、作中に登場する馬などの名は、先述の英雄叙事詩にて確認できる。アルパムスやマナスとは叙事詩中での主人公にあたる英雄の名前であり、英雄たちは作中でもっとも強く、激しく、時に美しい。
「英雄叙事詩」の歴史や形態などについては省略するが、重要なのはカザフの地に育まれた文化には「英雄」の存在を待望し、受容する姿があるということである。
彼らは街や、施設などに英雄叙事詩中に見られる名付けをし、また街中では英雄の像を見ることもできる。余談ではあるが、キルギスの首都ビシュケクに立つ騎馬マナス像の馬には、立派なちんちんがついている。あと動物園の馬もなかなかのブツをボロンしてる時がある。
英雄叙事詩の主なテーマの一つに「外敵との戦い」がある。英雄が戦う相手は「異民族」や「異教徒」であることが多い。たまに超自然的な怪物と戦うこともある。
敵対する異民族や異教徒を、英雄は苛烈に打ち倒していくわけだが、全ての異民族や異教徒が敵となるわけではない。
盟友となった異民族とともに、英雄はさらなる敵を打ち倒していくのである。
(英雄叙事詩中に現れる異民族は大抵がモンゴル系の遊牧騎馬民族な訳だが、細かいことはいいんだよ)
敵についても、少し話をしたい。
英雄は異民族と敵対し、彼らを倒して強さを示す。異民族の長との一騎打ちはしばしば物語のクライマックスとなり、もっとも盛り上がるシーンであると言っても良い。
YOIにおける王といえば、J.J.ルロワに他ならない。
11話でオタベック・アルティンと対峙したJJの姿は各位の記憶に新しいことと思うが、ここでもオタベック・アルティンが持つ英雄性を感じ取ることができる。
そうして「勝利」を得た英雄は、やがて自集団を束ねる長となり、後世へと名を残す偉大な存在となるのだ。
英雄叙事詩はその他様々なエピソードによって構成されているので、興味を持った皆さんには是非読んでいただきたい。
ここまでの参考文献は以下の通りである。
坂井弘紀2002『中央アジアの英雄叙事詩:語り伝わる歴史』東洋書店
坂井弘紀訳2015『アルパムス・バトゥル:テュルク諸民族英雄叙事詩』平凡社
我々は幸運にも日本語でテュルク系英雄叙事詩に触れる機会を持った。最大の感謝をここに表す。
以下、蛇足。
オタベック・アルティンはサマーキャンプを経てバレエからは離れたようだけど、彼はその後どこに行ったのだろう?
個人的に、例の演技終了時のポージングからはコサックダンス(ホパーク)の匂いを感じた。
12話で明らかになるのだろうか、期待は大きい。