■ヴィーガンが憎くても文章はちゃんと読もう

このまとめ記事(「ヴィーガンは個人の趣味の話などではなく、正義の原理に基づいた規範的主張なのだから、それを他人に向かって主張するのは当たり前」 https://togetter.com/li/2013016 )のブコメを見てびっくりしたんだけど、このまとめの中心となっているTarouphoさんのツイートの意味が取れてない人が多過ぎる(いつものことだがね)。

例えば、

TANI_Röhei@赭埴庵 🏴 @Taroupho 何を勘違いしているのか知らんが、ヴィーガンは（少なくともその一部の派閥は）個人の趣味の話などではなく、正義の原理に基づいた規範的主張なのだから、それを他人に向かって主張するのは当たり前でしかないのだが。児童虐待に反対する人は、全ての人が児童を虐待することに反対するに決まっている twitter.com/otapediatricia… 2022-12-16 15:26:57

と言うツイート( https://twitter.com/Taroupho/status/1603637788272111616 )があるけど、このツイートが言っているのは(書いてあることをその通りに読めばいいのだが)、

「少なくとも一部のヴィーガンは、彼らが正当だと受け入れている規範的主張から演繹される結論として肉食を否定しているのであって、それを他人に対しても受け入れるよう迫るのは当然である」

ということ(多分)。ここで前提として以下を確認しておく。

• まず、第一に「規範」とか「規範的主張」と言うのは倫理学の用語であって、少しも倫理学を齧ったことがなくて、この言葉を雰囲気で解釈している人は多分的を外しているから沈黙した方がいい。と言っても大きくは「〜すべき」と言うタイプの主張と把握しておけば問題ない。ただし、「〜すべき」と言う主張ならなんでも規範と言えるわけではない。例えば、「力の弱い人は力の強い人に屈服すべき」と言うのは、見るからに正しくない感じがするように、恐らく規範的主張としては成立しない。どんなものが規範的主張と言えるかは難しい問題だが、例えば一つの判断基準として、自分が社会においてどの人間かがわからないと想定して(「無知のベールをかぶって」)、その主張を受け入れられるか否かで判断するというのがある。この場合、先の主張は自分が力の弱い人物だったとしたら受け入れられないので規範とは認められない。とはいえ、力の弱い人であったとしても受け入れると強弁することもできるけれども。
• 規範を受け入れるということは、(当然ながら)規範の内容に従うということ。つまり、「どんなときでも他人に肉体的暴力を振るってはいけない」という規範を受け入れるならば、絶対に肉体的暴力を振るってはいけないということ。
• 規範とは論理的構造を持つ。つまり、ある規範を受け入れるならば、その規範の含意する内容も受け入れるということ。例えば、「誰にも暴力を振るわない」という規範を受け入れるなら「友人、家族に暴力を振るわない」という規範も同時に受け入れるということ。
• このツイートの論理は「一部のヴィーガンの主張は規範に基づくものである」、故に「他人に同調を迫るのは当然」という非常に単純なもの。
• では、ヴィーガンの「規範(正義の原理)」とは何かという点を問いたくなるが、実はここでは関係がない。このツイートはあくまでも規範的主張の性質を説明しているだけ。
• 一応、私見を述べておくと(注: 私はヴィーガンではない)、ヴィーガニズムの原理としては功利主義的立場が最もポピュラーではないかと思う。つまり、「動物を含め、苦痛の総量を減らすべき」という原理だ。ちなみになぜ人間だけでなく動物も考慮すべきなのかは、「人間だけでなく動物も苦痛を感じることは、見かけ上も進化論的にも十分根拠があるのに、種が違うというだけで配慮しなくても良いというのは差別であり、合理的な根拠がない」という種差別の議論に基づく。ただしこの説明は非常にラフであることを断っておく。

以上の点を踏まえれば、先のツイートの内容は大体理解できるだろう。

とはいえ、以下のような反論がありそうだ。

• 想定反論：絶対的に正しいわけでもないのに「正義の原理」というのはおかしい。
• 再反論：この場合の「正義の原理」というのは「その人の倫理的立場の基礎をなす(一般的な)規範的主張」というぐらいの意味(だと思う)。要するに「主張の正当性の基礎」と解釈したら良い。だから誰にとっても自明に正しいというわけではないので、反論すればいい。「正義とか言っている時点で駄目」という主張はかなりしょうもない、というか駄々をこねているのと変わりない。

• 想定反論：勝手にそういう考えを信奉するのはいいけど、他人に同調するよう迫るのはおかしい。
• 再反論：分からなくはない面はあるが、彼らからすれば、肉食の人たちは明らかに間違ったことをしているので、それを正すべく迫るのは当然ではある。例えば、あなたが道を歩き、公園を通りかかったときに小学生の軍団が一人の子を明らかにいじめていたとして、あなたはそれを止めないだろうか。そして止めに入ったとして、いじめている側の子供があなたに「うるせー、関係ねーだろ」と言ったしよう。あなたは「確かにそうだ」と引き下がるだろうか。もしあなたがそれでも止めに入るのならば、それは「いじめは駄目」という規範を相手に押し付けることになる。ヴィーガンが行っているのも類似で、彼らは「動物を苦しめてはならない」という規範を他の人に押し付けているというわけだ。まあ、普通の人はマジョリティとして規範をかなり共有しているから、あんまり意識していないだけで、規範の押し付けは大なり小なり当然のように起こっていることだ。だから規範の押し付け自体に反対するのは、ほとんどの人にとってはダブスタに過ぎない。ちゃんと反論したらいい。つまり、「肉を食べることが間違っていないという規範」を組み上げればいい。

• 想定反論：とはいえ一部のヴィーガンのやっていることはおかしい。
• 再反論：先に挙げたツイートは以下のツイート( https://twitter.com/otapediatrician/status/1603484803449643009 )の引用リツイートである。

オタ小児科医 @otapediatrician

その、「他の人、あるいは全ての人がヴィーガンになるべき」という思考自体が傲慢だし危険だし反社会的だし愚かだから嫌われるし未来永劫マイノリティのままなんですよ。 twitter.com/kohakunodarlin…

2022-12-16 05:19:03

要するに、「ヴィーガンが『他の人、あるいは全ての人がヴィーガンになるべき』と主張しているのがおかしい」という主張に対し、「規範的主張とはそういうものだ」と言っているのであって、今回のまとめのトップにある田村淳のツイートへの直接の言及ではない。そもそも「一部の過激なヴィーガン」の話をしていないということ。

• 想定反論：でも、過激な活動はおかしいし、その主張も活動からは伝わってこない。
• 再反論：理念ぐらいは調べたら簡単にわかることでは。主張と活動が食い違っていておかしいというなら、そう言ったらいい(無視をする自由もある)。ただ、最近の雀魂の広告の話でもあったけど、自分の視界に入らないでいてもらう権利というものはそれほど強くはない。

Permalink | 記事への反応(14) | 17:31

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