はてなキーワード: レプトケファルスとは
みなさんは「ウナギ」と聞いてどんなことを思い浮かべるでしょうか。蒲焼などの料理、「うなぎのぼり」といった慣用句、「掴みどころがない」といったイメージなど様々あると思います。最近では「おはよウナギ」なんて言葉も流行りました。
しかし、生き物としてのウナギの生態系は謎に満ちあふれています。川や近海で捕れたり、近年では養殖も盛んになったりしていますが、どこで生まれ、どのようにして日本にやってくるのかがわかっていませんでした。
しかし、塚本さんを始めとする調査チームが始めてウナギの天然受精卵の採取に成功しました。今回は長い間見つからなかったウナギの卵が発見されるまでの壮大な物語を話していただきました。
ウナギは孵化までおそらく1日半、仔魚になるまで半年、合わせて約1年を海水中で過ごし、あとは淡水で生活するそうです。ウナギを図鑑で調べてみると、ほとんどが淡水魚の図鑑に載っていて、海水魚図鑑には載っていないのはこのためだと塚本さんは話します。
では、ウナギはどこで産卵しているのか。これが最大の謎でした。調べ初めは本州近海でしたが、それが沖縄の南、台湾沖、フィリピン近海とだんだんと推定場所が南下していきました。中でもフィリピンではウナギの変態前であるレプトケファルスが見つかるなど期待が高まりましたが、しかし卵は見つかりません。
そこでウナギを捕って調べてみると、あることがわかりました。冬だと思われていた産卵時期が、実は夏だったのです。ウナギは「耳石」を見ればいつその個体が生まれたかがわかるそうです。塚本さんはこれが調査成功の一因だと語ります。
調査対象は、西マリアナ海嶺の南端部に移ります。東西に伸びている塩分フロントと海嶺との交差地点です。塩分フロントとは、異なる塩分濃度の境界のことです。この地点はスコールが多発するため、急に塩分が薄くなる場所があるそうです。調査チームは、ウナギがサケのように海の"ニオイ"を幼い頃に刷り込まれることで産卵するためにこの場所戻ってくるのではないかという仮説を立てました。
そして2009年、4回目の網でついに受精卵が見つかりました。最初は深海の底にあると考えられていましたが、実際は深海の淵の浅いところ(海抜160m程度)にピンポイントに網をかけて見つかったそうです。卵は1日半で孵るのですが、幸運にも孵化直前の56mmの卵が採れました。
ここから親ウナギの行動や産卵の流れなどが明らかになってきました。あるホルモンの分泌をきっかけに、川にいるウナギが昼夜を問わず泳ぎ続ける「ナイトレストレス」状態になり、一目散に産卵場所に向かいます。昼は外敵から身を守るために深海を、夜は精巣や卵を成熟させるために温度の高い表層近くを泳ぎます。ウナギは意外と俊敏で、長距離を泳ぐのに適した泳ぎ方をするそうです。また、60gというわずかな脂肪の量でなんと6000kmもの距離を泳ぐそうです。そして産卵期になるとオスの体は精巣だらけ、メスの体は卵だらけになり、1年の産卵期に複数回産むそうです。新月の夜に乱婚をすると考えられ、新月がくるまではその地点で滞留していると考えられています。そして産卵期を終えると、ウナギはその一生も終えます。
塚本さんがこれから調査したいこととして、「受精直後のタマゴが見たい」とおっしゃってました。今回の卵が採れた付近の水深6000m地帯は調査チーム内で通称「ウナギ谷」と呼ばれていて、そこにウナギの骨の化石や耳石が溜まっているはずであり、「しんかい6500」に乗って調査したいという次の目標を話していただきました。
「そもそもどうしてウナギを研究対象にしようと思ったのか」と参加者から問われ、塚本さんがこれまで研究してきた魚たちを紹介しました。最初はアユ、次にサクラマス、そして今のウナギです。アユは産卵場が淡水にあるのであまり謎が深くなかったのに対し、ウナギの場合は産卵場がわからなかったため、研究が長期化したそうです。
塚本さんの研究とそのエピソードの数々は、「なぜ動物は旅をするのか」というとても壮大な問いであるというお話しが印象的でした。たいへん興味深いお話を伺うことができました。