2021-02-19

愛知県知事リコール署名簿不正疑惑刑事罰について

若干珍しい話なので,たいしたものではないが,リコール不正署名についてどのような罰則が考えられるのか簡単にまとめてみようと思う。

と,なんか,ものすごく単純な見落としがあった(署名の偽造を見落としていた…。)ので,見え消しで修正。(2021/02/09 18:35修正追記

地方自治法違反

まず,今回は自治体首長解職請求なので,地方自治法第2編第5章「直接請求」の第2節「解散及び解職」の請求を見ていくことになる。首長の解職は地自法第81条に規定されていて,同条第2項が罰則規定である同法第74条の4を準用することを定めている。

同条第3項

条例の制定又は改廃の請求者の署名に関し、選挙権を有する者の委任を受けずに又は選挙権を有する者が心身の故障その他の事由により請求者の署名簿に署名することができないときでないのに、氏名代筆者として請求者の氏名を請求者の署名簿に記載した者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

同条第2項

条例の制定若しくは改廃の請求者の署名を偽造し若しくはその数を増減した者又は署名簿その他の条例の制定若しくは改廃の請求必要関係書類抑留、毀き壊若しくは奪取した者は、三年以下の懲役若しくは禁錮こ又は五十万円以下の罰金に処する。

同条第4項

選挙権を有する者が心身の故障その他の事由により条例の制定又は改廃の請求者の署名簿に署名することができない場合において、当該選挙権を有する者の委任を受けて請求者の氏名を請求者の署名簿に記載した者が、当該署名簿に氏名代筆者としての署名をせず又は虚偽の署名をしたときは、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

現状問題になるのは以上の2つだと思われる。

署名簿には,原則として請求者(リコールに賛成する人=解職請求をする人で請求者)の自筆署名必要だが,「心身の故障その他の事由により請求者の署名簿に署名することができないとき」,要するに手を骨折していて字がかけないとか,そういった場合には代筆を委任することができることになっている。委任というと委任状が思い浮かぶかもしれないが,これは要求されていない。そもそも署名もできないような場合しか使えないので,当然委任状を作成することもできないことが想定されるためだろう。他方で,代筆を行う側は,氏名代筆者として自身名前署名をしなくてはならないことになっている(地自法第81条第2項,第74条8項,同9項)。

今回の場合佐賀で書き写されたという名簿がどのようなものであるか明らかではなく,また,書き写された署名簿が選挙管理委員会に提出されたものかどうかについては解明されていない。当然,名簿の書き写しとなれば,書き写された署名は「委任を受けずに」されたもので,地自法第74条の4第2項違反ではないか・・・と思う方もいるだろうが,そこは厳密には自明ではない。元の名簿に記載された人全員から代筆の依頼がある可能性は0だとは現時点では言えないためである(まあ,数を考えればそんなはずないのは自明と言っても良いかもしれないが。)。

他方で,署名簿には氏名代筆者の署名がされていないことはほぼ明らかだと言っていいだろう(もちろん,これも現物が明らかになったわけではないが,さすがに,佐賀県で愛知県投票権を持つ人が名簿を書き写してはここに律儀に署名をしていたとは到底考えがたい。)。つまりは,どれだけ慎重に言っても同条第4項違反はほぼ確定と言える。

上記の4項違反が強いのは,「代筆の同意があると思っていた」「委任を受けたと思っていた」というような主観面での逃げを打てなくしていることで,その意味では,巻き込まれアルバイトの人たちも刑罰対象になる可能性がある。怪しいバイトには気をつけましょう。

刑法違反(偽造)

もうひとつ他人名前勝手署名したということで,文書偽造はどうなのだろうか,ということも検討する。

本件は,公務員作成する公的書類ではないので,成立し得るのは刑法159条の私文書偽造等の罪ということになる。

同条第1項

行使目的で、他人印章若しくは署名使用して権利義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人印章若しくは署名使用して権利義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

同条第3項

前二項に規定するもののほか、権利義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

リコール署名簿への署名は,リコール請求を行う意思を表示するもので,「権利義務若しくは事実証明に関する文書」に当たると言っていいだろう。ただ,偽造ではなく委任を受けたものだ(と思っていた)というところに地自法第74条の4第2項の場合と同様の逃げ道がないではない。また,「行使目的」については,そもそもリコール有効数に届かないことが前提とされており,提出しないことが想定だったということになれば,否定される可能性は0ではない。

  • 高須さんが全責任は自分がとるって言ってたから弁護士費用とかも全部負担するんだろうし 逮捕者が出たりしたらその人の今後の人生も面倒みてあげるんだと思うよ 裁判が決着するまえ...

  • 100万で収まるならさっさと金払いそうだな

  • 興味深い 街角で金配りながら署名お願いしてても罪になったのかな 選挙なら引っかかりそうだけど

    • そういえばどうなっているんだろうと思って地方自治法を見返してみたが,禁止規定も罰則規定もない。 不思議だね。ちゃんと文献見てみようかな。

      • そうなんだ! 罰則ないならビルゲイツ級の金持ちなら地方政治動かせちゃいそうだね 今回43万票で8割がやらせ?で、34万票金で集めるとして、1000円謝礼で払うなら3億4000万円か… 余裕で...

  • これ、民主主義を根底から否定しかねない重大犯罪だが、公職選挙法は関係ないのね

    • 知事のような首長のリコールについては,まず一定数の署名で「解職の請求」(今回愛知で問題になっているやつ)をして,これが問題なければ有権者による「解職の投票」が行われる...

  • これで尻尾だけ逮捕されたら泣けるね 獄中で没するのかなぁ

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん