2020-07-30

実家の方では、本を手裏剣のように投げて遊ぶ習慣があった

本を水平にして、本が開く側の角に近い位置を持つ。

手首で強くスピンをかけて、手裏剣のごとく、水平方向に回転させながら投げるのだ。

野球ボールのように手首を縦に振ってスピンをつけるのは、手首の構造上、わりと楽だが、本の場合は横に振ることになるので難しい。

そのためには持ち方が重要で、手を添えるように持つのではなく、指先だけで摘まんで持つのだとよく指導された。

なるべく本の角に近い位置を持てと言われたのも、今考えれば、手首から距離を稼いでモーメントを大きくするためだったんだろう。

本の角を摘まむなんて行動は日常に無く、そのたびに指が吊りそうになるわけだが、練習すると痛みにも慣れてきた。

やがてスピンは良くかかるようになり、本の飛距離も伸びて嬉しかった。

あと、物体は上側45度方向に投げた場合が一番飛ぶと言われているが、本の場合、それだとバサッと空中で開いて落ちてしまう。

そのため、本を投げる場合は、水切りの石のように、水平に投げる方が良く飛ぶとも言われた。

から、河に行って水切りの練習もした。

徒然でなく、目的意識を持って水切りしたのは、後にも先にもあの頃だけだ。

指を吊ってまで本を投げるのに比べたら、それは授業で眠りにつくくらい、無意識簡単だった。

それゆえ、河幅はそこまで狭くなかったが、石はたびたび対岸まで跳ねてしまう。

対岸に人が居ると練習ができず、シュッシュッと口に出しながら、手首を何回も「素振り」して練習に勤しんだ。

当然、薄くて大判な本ほど、空気抵抗が弱く、回転力が増すため飛びやすい。

すると、遊びの目的はいかに厚手で小さい本を飛ばすかに移ってくる。

小さいのでいかに手早くスピンをかけるかが勝負なのだが、それにもまして、厚手になるその重量に手首が負けてしまう。

スピンでの痛みは捻るような感じなので、捻れが戻るようにそのうち消えてしまうのだが、重量による痛みはグキッと来る致命的な痛みだった。

さすがにまずいと思って重量にこだわるのはすぐ辞めたが、一度だけ、広辞苑学校体育館の向こうの壁まで飛ばしときはとても嬉しかった。

今なら、鳥人間コンテストで対岸まで届いた人を見た気分とでも言うのだろうか。。

まあ、利き手利き手首?)は1週間くらい使い物にならなくなって、ノート左手で書いたり散々だったが。

もしくは飛距離を競うこともある。

こちちは手首への負担という点では、それほど問題ないのだが、費用的な問題が壁となる。

長く飛ばしたいとなると、体育館倉庫でも借りない限り、飛ばす場所は野外になる。

(ちなみに、学校廊下は長さ的に十分だったが、他の生徒にぶつかる、蛍光灯を割るなどのイベントを経て当然禁止されていた。)

すると、本は飛ばすたびに土や泥で汚れてしまう。

ある程度の汚れだと、本のページとページがくっつくので、逆に飛距離が伸びることもある。

それを「本が締まる」と呼んだりしたわけだが、それでも表紙面に付着する泥が多くなると、真っ直ぐ飛ばなくなる。

それゆえ、本には定期的な買い替え需要が発生する。

いや、野外で飛ばす人でなくても、少しでも飛ばしやすい本を求めて本を買い漁ったりする地域性なのだ

紙飛行機感覚で本を飛ばそうとする地域性なのだ

当然、古本屋もそういう需要を見越していて、価値はわからないが、とにかく薄くて大判な本を多めに扱っていた。

それは、ブックオフで100円なのにいつまでもまれている価値薄い本とでも言えばわかってもらえるだろうか。

そういえば、古本屋でいつまで経っても同じ本が積まれているというのも、大学入学で家を出るまで知らない現象だった。

そういうわけで、飛ばして遊ぶだけの内容がわからない本が、家にはいっぱい置いてあった。

から子供の頃は、どんな家でも2種類の本棚があると思っていた。

読む用と飛ばす用と。

後者は家の外に置いておくのが普通だったが、大人になってからは、そんな習慣は世の中に無いのだと聞いて、

逆に、汚れた本まで家に持ち込むの?家の中がドロドロになるのに気にしないの?と勘違い勘違いを重ねたこともあった。

あと、地元以外の家だと、壁に本をぶつけた傷が無いことも新鮮だったな。

あれ、窓を割らないように投げるもんだから、窓と反対側の壁によく付けちゃうんだよ。

花瓶や壁掛けの絵画なんかも、実物は大人になってから初めて見た。本を投げて壊すかもしれないから、実家には無かった。

そして図書館は、飛ばすための「道具」が揃う夢の場所だったが、当然そのような行為禁止されていた。

「本を飛ばして遊ばないでください」なんて掲示が貼られていたのは、うちの地域ぐらいのものだろう。

図書館においてだけ、本は本来存在意義を保つことができたのだ。

それでも、貸出を受ければ誰も見ていない。

図書館には必ずと言っていいほど、変なページで曲がり、ホコリや泥の付いた本があった。

図書館の本がこんなにキレイ管理されてる!と知ったのは、やはり実家を出てからのこと。

そういえば、実家近くの狭い公園にも同じ掲示が貼ってあったな。

野球ボールじゃなくて、本で近所の家のガラス割るっていう経験も、子供にはよくある経験だと思っていた。

うそう、良い子は真似しないでね。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん