2020-07-11

精神ストレスケトン体が出た話


精神ストレスが多くなると、私はご飯を食べなくなる。

誰しも経験があることだろう。食事が喉を通らなくなるのだ。

最長で三週間ほど、わたしは一日一食春雨スープで過ごしていた時期があった。それは時にワンタンスープであったりもしたけれど、それ以外はスポーツドリンクだけで過ごしていた。

当然、身体にガタはくる。倦怠感からまりだんだんと常に付き纏う吐き気に変わった。目眩を起こし、営業スマイルを作ることすら困難になる。

それでも、何か食べなくては、という気になれなかった。

ある朝、今までと比べられないほど具合が悪かった。

職場へたどり着いたはいいが、あまりの顔色の悪さに早退するよう勧められた。営業担当に早退許可申請しているうちに吐き気を催し、スポーツドリンクしか入れていない胃から黄色い液体を吐き出す。吐くとそのうち楽になったが、ロッカーで帰り自宅をする間に手も足もビリビリと痺れ始めてまともに動けなくなった。なにもしていないのに全身の倦怠感と息切れ動悸が止まらない。

フラフラした体で休日診療所滑り込み吐き気を訴えた。ストレスだと分かってはいたが、職場に診断を報告しなければならなかったからだ。

待ち合いの間に尿検査を受けた。普段風邪も引かないので診療の手順として順当なのかは分からないが、まあふつうに尿検査を受けた。

間も無く名前を呼ばれ診察室にはいると、おじさんよりはおじいさんに近い医者が座ってこちらを見ていた。

「どうぞ」

手で椅子を指し示し、私は荷物をカゴに入れて腰掛ける。

吐き気がするんだね」

はい

「尿検査の結果、ケトン体が出ています

初めて聞く単語だった。それを察した医者説明をつづけた。

「いわゆる『飢餓』の状態です。栄養が足りていなくて限界になった体は、自分脂肪を燃やして生きようとしています

「…はい

「なにかストレスがあるのかな」

柔らかい声だった。私はいまも、この言葉を思い出すと涙がでてくる。

問診票には、『ご飯が食べられない』とは書かなかった。ただ吐き気がする、とだけ訴えていた。熱もなかった。尿検査をしてみたらケトン体が出ていた。

ケトン体が出ると言うことは、つまり食事ができていないのだ。でもそれを症状の一つとして私は訴えなかった。つまり食べられていないと言う自覚があり、原因もきっと分かっている——というところまで医者は分かっていて、そう言ったのだろうと思った。

人間関係で、とは言えなかった。内科医師には関係のないことだから

心療内科に行くべきだったのを、ここへきてしまたことを申し訳なく思っていた。

職場上司が変わって…」

環境の変化というのはストレスの原因になるからね。それはもうどうしようもないこと?」

はい…」

「何かうまいこといくといいけどね。…ケトン体が出るのが続くとそのうち倒れてしまうし、自分しんどいでしょう。お砂糖をたくさんいれた飲み物でもいいから、お腹に入れるといいよ」

それが正しいかなんて、調べてもないから今だってからないけれど、私はこの医者出会たことで間違いなく救われた。

精神ストレスは専門外だから、と突っぱねられていたらあの時期を乗り切ることは出来なかったかもしれない。

結局そのあとストレスの原因は解消し、日常生活に戻ることが出来たが、それからも時折食事の取れない時期は訪れた。

あんな風に手足が痺れて辛い思いをしないよう、砂糖をいれた飲み物意識的に飲むようにしている。

それはケトン体が出ないようにするためでもあるし、あのおじいさん医師言葉を思い出す時間でもあるからだ。

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