スムーズに話を進めるための段取りはあらかじめ決めており、目の前の女性が魔法少女であること、その証明を手短に済ませる。
まだ状況を把握できていないのか、カジマは受け答えする以外は全く喋らない。
「というわけで、お付きの方が詳しく説明を」
「そちらが魔法少女になるためにやるべきことは、このカプセルを飲むことだけです。ナノマシンが入っており、合言葉やパスコードを強く思うことで反応する仕組みとなっています」
「なるほど、ナノマシンか」
大体のことはナノマシンで説明できることを、俺はとあるゲームから学んでいた。
「正確にいうと、このナノマシンは我が社にあるアンドロイドと空間を繋げ、魂と器を癒着させる役割があります。彼女みたいに遺伝子レベルで構造が違っていても、体に拒否反応が起こらないのはそのためです」
「ああ、もしかして小動物の姿をしているあなたも、普段はスーツとか着ている普通の人間ってことですか」
専門的なことは分からなかったが、つまりはカジマでも魔法少女になることは可能らしい。
「やったな、カジマ!」
カジマはというと意外にも反応が薄く、俺たちの話を坦々と聞いていた。
「魔法少女になってやることは、主に自分の住む町の自警活動や、イベントなどの参加。後は定期的に報告書の提出や、魔法少女たちの集会に参加していただきます。後は、良識の範囲内で魔法少女になることは自由となっております」
「正体がバレること自体は咎められないのか。だから、そこまで焦っていなかったんだ」
「ほとんどの方はイメージや世間体などを気にして、正体を隠したがりますがね」
彼女が先ほどからいたたまれない態度でいたのは、やはりそのせいだったか。
まあ、カジマならそこらへんも気にしないし、断る理由がないな。
「……では、以上のことを納得していただいたら、カプセルを飲んでください。後はこちらでカプセルと器を登録すれば、それで変身する条件は調います」
一通りの説明を終え、いよいよ念願の時が待っていた。
体が膠着しているが、目線は活発に動いている。
そんな状態のカジマは搾り出すような声で、恐る恐ると言葉を発した。
予想外の答えに、その場の時が止まったかのように感じた。
だが、それも間もなく俺の言葉で動き出す。
「お前、常日頃から『魔法少女になりたい』って言ってじゃないか。一体どうしたんだ」
「う……う~ん…なんか……怖い?」
「いやいや、注射を嫌がる子供じゃねえんだから。ティーンエイジャーだろ。怖いとか、そんな理由で魔法少女になるチャンスを棒に振るもんじゃない」
「なんというか……うーん……思っていたのと……違うというか」
「もしかして、お前の中での理想と違うとかか? だが、細かいところは置いておくにしても、有り得ないと思っていたことが、有りえるところにまで来ているんだ。チャンスがあるなら掴むべきだ。まずは出来ることからやってみて、その上でお前の理想に近づけていくよう努力していけばいい」
カジマは自身の首や顔を何度も撫で回しながら、要領を得ないことを言うばかりだ。
その問答を繰り返すうち、カジマは突如立ち上がる。
「……そういうんじゃないんす」
「……?…何がだ」
「そういうんじゃないんす!」
その言葉を反復させながら、カジマは走りながら出て行ってしまった。
俺たちは困惑していたが、当事者がいなくなってしまってはこれ以上ここに留まっても仕方がないため自然解散となった。
「兄貴、あの人ひょっとして、魔法少女になりたいわけではないんじゃ」
「そんなバカな。ありえない。本人がなりたいと言っていたんだ。周りから変な目で見られようが『魔法少女になりたい』と言い続けている奴だぞ」
「うーん、でもあの人の反応を見る限り、むしろ迷惑そうに見えたよ」
だが、『魔法少女になりたい』とあそこまで言っていた奴が、なることを拒否した理由も分からない。
しかも、その日からカジマは「魔法少女になりたい」と言わなくなり、俺はますます困惑するのだった。
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