プロ野球選手、宇宙飛行士、大金持ちっぽい人、何でもいいから有名人。
実際になれるのかなんて深く考えなくていい。
俺たちがあの頃に語っていた「何になりたかった」ってのは、そういうものだ。
でも、いつまでもそんなことを言葉にするのは、周りはもちろん自分自身にとってもツラいものであることを、成長していく過程でほとんどの人は気づいていく。
その過程を知らないで生きているような人間が、俺の同級生のカジマだった。
「魔法少女になりたい」
こいつのなりたいものは「魔法少女」で、その事をよく周りに吹聴するという、友達目線で見ても痛々しい奴だった。
そりゃそうだ、プロ野球選手、宇宙飛行士とは別ベクトルで「なろうと思ってなれるものではない」ってことを、俺たちの歳にもなって分からないのは可笑しいのを通り越して歪なのだから。
当然、周りには「ちょっと変わった人間」と認識されている(まあ、俺たちの町には変人が割と多いが)。
それでも、あいつが周りを気にせず「魔法少女になりたい」といい続ける気概を、俺はそれなりに尊重していた。
そんなある日、一世一代の転機が訪れた。
弟が、何と魔法少女が町に現れたと言い出したんだ。
ちょっとした事件にどこからともなく現れ、妙ちきりんな見た目で喋る小動物に、超自然能力。
事件を颯爽と解決し、何処へと消えていくと、一部始終を目撃した弟は語る。
俺たちのイメージする、漠然とした魔法少女の要素は一通り備えていたようだ。
弟がクダラナイ嘘をするような奴だとは思っていないが、あまりにも現実味のない話だったので俺は冗談半分に聞かざるを得なかった。
弟は更に話を進める。
それを見た弟と仲間たちは興味津々で、正体を暴くため捜索に乗り出したという。
「おいおい……」
しかも、既に正体を突き止めていると聞いたとき、俺は脱力感を覚えた。
あまつさえその魔法少女を連れてきた時は、とうとう椅子からずり落ちてしまった。
そんな弟たちの実行力に呆れるとともに、連れてきた魔法少女の正体に俺は驚いた。
目の前で光を放つと、10歳前後の見た目だった少女は、十数秒で20代の女性に変身したのだ(いや、元に戻ったいうべきか)。
これまたフィクションにありがちな話がどんどん展開されていったが、目の前で実際に超自然能力を見せられた以上、信じるしかない。
魔法少女をやり始めて何年経つかとか、普段は何をやっているかまで言いそうになったところで俺は慌てて制止した。
そんな話したくもないだろうし、俺としても聞きたくはない。
「あの、魔法少女ってメンバー募集していたりしますか? なりたいって奴が知り合いにいるんですが」
これは、もしかしたらカジマの夢が叶うかもしれないぞ。
俺は急いでカジマに、家に来るよう連絡した。
≪ 前 スムーズに話を進めるための段取りはあらかじめ決めており、目の前の女性が魔法少女であること、その証明を手短に済ませる。 まだ状況を把握できていないのか、カジマは受け...
≪ 前 間違いなくあの日の出来事が決定的だったのは分かるが、何があいつにとって不満だったのか、俺には不可解だった。 同級生のタイナイにそのことを話すと、やはり冗談半分にし...