とある人口数万の地方都市で育った。20代後半。2人兄弟の長男。
小、中学生の頃なんかは、クラスに気になる女子はいても、普通にクラスメートでいられたらいいという感覚だった。ここまではよくある話だ。
中学卒業間際で、後輩の男の子に恋愛感情のようなものを感じてしまった。相当悩んだあげく、隠すことに耐えられなくなり、高1の夏に大々的にカミングアウト。
法には触れないまでも、当時は非常識なまでの暴走ぶりだった。ゲイというだけでなく、その暴走ぶりも噂は広まり、完全にそういう人と認識された。
だからといっていじめられることもなく、同級生も皆、変わりない関わりを持ってくれた。多少の後ろめたさはあったが、何だかんだで高校までは楽しかった。
他県の大学に進学した。キャンパスライフへの憧れとやらとは無縁で、大学生になったからと、特別やりたいこともなかった。
むしろ、たまに地元に戻って、プチ同窓会のごとく、久しぶりに会う友人が楽しみだった。
成人式を迎えた頃には、むしろゲイという自覚でもなくなっていた。かといって、彼女が欲しい理由もなかった。
都会に出たい理由はなかった。長男だし、親のことを気にかけられる距離で生きていくことがずっと望みだった。地元にいたほうが、昔からの友達とも関わりやすいはずと考えた。
だから地元で就職した。仕事に追われたり、ちょっとヲタク趣味にのめりこんだりしているうちに、30が目の前に見えてきた。
そろそろ真剣に相手を探そう! そう思ったが、現実は甘くはなかった。
友人とのかかわりは想定外に希薄になっていた。同窓会には呼ばれるけど、個人的に会うことはほぼ無くなっていたし、用もなく連絡を取るほどでもなくなっていた。
会社ではある程度の位置には居るが、お酒がほとんど飲めないということもあり、飲み会等は本当に「つきあい」程度。
女性社員の少ない職場。ちょっと前までは相手を探す意識もなかったし、まぁ手を出せる雰囲気ではない。
田舎ゆえに婚活イベントの類は少ない。あっても知り合いがいる可能性が高い。高校時代の話を蒸し返されるのではないかというのが、一番の懸念だ。
かといって、せっかく地元で得た今の仕事も捨てたくない。近場の大都市で出会いがあったとしても、そのあとが現実的ではない。
気がつくと、どの方面でも、数少ない可能性に賭けるしかなくなっていた。