2021-05-23

オリンピックは繰り返す

2020年東京オリンピックは、大盛況で幕を閉じた。

開催国日本メダルラッシュに沸き、経済も上向いて最高の一年となった。

そんな明るい未来を予感させる年が終わり、翌年の2021年初頭、冷や水を浴びせるがごとく、凶悪ウイルス人類を襲った。

それは新型インフルエンザウイルス

突然変異を起こしたこ病原体は、例年の流行とは一線を画し、高い感染力と致死性を備えた最悪のウイルスだった。

この年、新型インフルエンザによる死者は世界人口の3割に達し、各国は大混乱に陥った。

しかウイルスは毎年変異を繰り返し、有効打と期待されたワクチンさえも効果限定的だった。

翌年以降も猛威を振るい続け、どの国も例外なくインフラ経済基盤に大きな打撃を受けた。

人類は衰退の一途を辿った。

そんな中で、皮肉にも発達したのがAI機械学習だった。

労働人口が激減する穴を埋めるべく、積極的投資が行われ、技術革新が起きた。

AIのおかげで高い精度の未来予測可能となり、遺伝子操作の分野でも大きな成果があった。

何よりもタイムマシン理論の構築は、人類の知性のみでは到達不可能だったと言われている。

2030年にはタイムマシンの試作機が完成した。

一部では目覚ましい科学の発達を見せながらも、人類滅亡は目前に控えていた。

新型インフルエンザウイルス蔓延により生産性は激減し、深刻な食料不足になっていた。

それを引き金に各地で紛争が勃発。

AI予測でも明るい未来を導き出すことはできなかった。

しかしそのAIから意外な提案がされる。

もしも新型インフルエンザが発生した2021年の前の年、2020年に毒性の低いウイルス流行していたら?

感染対策が十分に行われた翌年、新型インフルエンザ感染を拡大することができずに消滅する、というシミュレーションをはじき出した。

過去修正することで、人類を救うことができるかもしれない。

作品タイムマシンは、人間のような大きな質量を運ぶことができなかったが、微小な病原体であれば、過去へ送り込むことが可能であった。

遺伝子操作新型インフルエンザウイルスRNAを組み込むことにより、感染力だけが強く毒性の弱いウイルス作成された。

遺伝子を組み込む毒性の弱いウイルスには、風邪の原因としても有名なコロナウイルス選択された。

タイムマシンは、2020年へ、遺伝子操作したコロナウイルスを送りだした。

人類袋小路に迷い込むことなく、より良い未来をつかみ取ることを願って。

◇◇◇◇

2020年初頭、突如発生した新型コロナウイルスはいくつかの国でパンデミック引き起こした。

大きな犠牲を払いつつも、各国は隔離政策を打ち出し、少しずつではあるが封じ込めることに成功した。

翌年の2021年新型インフルエンザが爆発的に広がるはずであったが、高熱を出した患者はすぐに隔離他者感染することなく、人知れず消滅した。

こうして、新型インフルエンザ人類を追い詰める未来は消え、新型コロナで混乱する世界線へと改変された。

新型コロナは、新型インフルエンザを知らない人類にとっては大きな痛手となったもの、数年のうちに克服された。

人類は、より良い未来へ舵を切ったはずだった。

この新型コロナ騒動で、一人負けの様相を呈した国が日本だった。

新型インフルエンザよりも一年早く発生した新型コロナのせいで、東京オリンピックは中止となった。

しかも、延期中止をめぐる中で数々の不祥事が発覚。

日本は諸外国からの信頼を失い、国民は自信を失った。

期待していた五輪特需も無くなり経済が衰退。日本はみるみるうちに失速していった。

そんな日本が打開策として打ち出したのが、かつての栄光科学技術立国日本の復活であった。

とは言え、一度失われた物を手に入れるのは容易なことではない。

場当たり的な政策を繰り返し、国内外失笑を買うことが多かった。

それでも、数を打ったことで奇跡的に成果が出た。

それは空間不思議な亀裂があるという、今までに発見されていない現象だった。

実のところ、この亀裂はタイムマシン新型コロナウイルスを送り出した際に生じたものだった。

タイムマシン過去物質を送るのはピッチャーキャッチャーへ向けてボールを投げるのに似ている。

時空とはピッチャーキャッチャーの間にある障子のようなもので、途中を通る時、空間に亀裂が入る。

2030年から2020年の間には新型コロナウイルスが通過した亀裂が発生しており、日本研究チームが偶然にもそれを発見したのであった。

本来タイムマシン理論人類には到達し得ない領域である

新型インフルエンザ世界線ではAIの発達によりパラダイムシフトが発生したが、AIが未発達な新型コロナ世界線ではあり得ない。

しかし、何もないところから考えを飛躍させるのは無理であっても、観測できる事象があれば、類推可能だった。

落ちぶれた日本には他にできることもないので、この研究に力を注いだ。

ピッチャーが投げたボールの途中の軌道観測すれば、それがどこから発生し、どこへ向けたものなのか推測できる。

時間的連続した亀裂を観測することで、これが2030年から2020年へと微小な何かを送りつけた結果であると仮説が立てられた。

この仮説には様々な飛躍があり、突っ込みどころも多かったが、偶然にも正鵠を射ていた。

そして2020年という終着点は、日本にとって忌々しい年だった。

新型コロナ未来から「悪意によって」送りつけられたウイルスである

そう結論づけた日本はこの過去へ向けたボールを撃ち落とすことにした。

ピッチャー2030年から2020年へ投げたボール軌道上にいる今、そこへ大きなエネルギーをぶつけ、ウイルスのような小さな物体消滅させることは、それほど難しいことではなかった。

これが他の国の発見であれば、もう少し慎重な対応をしたかもしれない。

しかし、余裕を失った日本は、すぐに行動へ移した。

2030年から2020年へめがけて送られた新型コロナウイルスは、こうして途中で破壊された。

2020年に新型コロナ感染爆発を起こさなくなったことで、2021年新型インフルエンザが大流行した。

新型コロナ世界線は消滅し、再び新型インフルエンザ世界線へと戻った。

こうして世界2020年から2030年の間で、新型インフルエンザ世界線と新型コロナ世界線を繰り返すこととなった。

人類は2つのウイルスに繰り返しパンデミックされる監獄へ囚われた。

◇◇◇◇

この様子を興味深く観察する、高次の存在があった。

人間が考えるところの神と言える存在である

彼は驚きと興奮を持ってこの事態を観察していた。

文明が未発達で精神的にも未成熟地球生命体が、まさか時間を操る術を身につけるとは想像していなかったのだ。

さらには無限ループを発生させ、宇宙全体を停滞させるとは。

ただ、感心はしたものの、地獄絵図をループするだけの人類にはすぐに飽きた。

宇宙全体を見渡せば、地球よりも優れた生命体は数多く存在した。

そちらを停滞させてまで宇宙ループさせる意味はなかった。

そう判断した後の彼の行動は速かった。

地球恒星である太陽に力を注ぐ。

太陽には、コロナと呼ばれる100万度を超える大気層がある。

彼は地球大気コロナ大気を入れ替えた。

奇しくもその日、日本では何度目かの東京オリンピック開会式が開かれていた。

その世界線では、新型コロナウイルス存在しなかった。

オリンピック開会式の段階では、新型インフルエンザウイルスも発生していなかった。

まだ人々は、明るい未来漠然と信じていた。

聖火台に火を灯す、オリンピック象徴する儀式の始まる瞬間。その時はやってきた。

地球太陽からの「聖火」が届く。

100万度を超える高温のプラズマ電子レンジよろしく地球をチンした。

こうして人類は終わりを迎えた。

この時、ループを繰り返した東京オリンピック10回目の開催だった。

オリンピック10回。

五輪10

ごりんじゅう。

ご臨終。

お後がよろしいようで。

  • 真面目に書く気がなく落書きなのは伝わってきた まあ暇つぶしなんだろう

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん